野球少年を取り戻せ…指導者必見!コンディショニングコーチ立花龍司さん3つの提言

スポーツ報知
立花氏の話に聞き入るボーイズリーグ関係者

 野球チームに入る小学生が全国的に少子化を上回るペースで減っている。市区町村で全国最多の小学生数(約18万人、2017年5月現在)の横浜市でも、同市小学生野球連盟によると最近10年で登録選手は半数の約5000人、「活動しているチーム数」は4分の3の250にまで減ったという。プロ、社会人などで長年コンディショニングコーチを務める立花龍司さん(53)が、子供の野球離れに歯止めをかけるため、少年野球の指導者に提言した。

 今月、立花さんは小中学生に硬式野球を教えるボーイズリーグの指導者講習会に招かれた。同リーグも小学生の部はチーム、選手ともに減少傾向が続いている。集まった関係者を前に、以前ある地域でスポーツをしている小学生900人のうち700人がサッカークラブに所属していた実例を挙げ、野球への危機感をあらわにした。「指導者のあり方が問われている。あるサッカーチームの低学年対象の体験入部では、子供にコーチをあだ名で呼ばせ、アップはせず、ゲーム形式の“遊び”から始まります。まず『楽しさ』を伝えようとする。対して野球は『こうしないとダメ』という、旧態依然とした指導が目立ちます。どちらに部員が集まりますか?」と問いかけた。

 メジャーでもコーチを務めた経験のある立花さんは、「もともと日本のスポーツは、剣道など個人競技中心で訓練的な要素が強い。そのため『体を使って楽しむ』という概念がない」とした上で、「子供たちは競技の楽しさを知れば『好きだからきつい練習にも耐えられる』と考えるようになる。野球でも米国やキューバに比べ、選手のやる気を引き出す科学(方法)が遅れている」と指摘した。では、指導者はどのように教えるべきなのか。

 〈1〉長所を見つける「足し算」の指導

 立花さんは悪いところを叱るのでなく、長所を見つけて褒めながら育てる「足し算のコーチング」を推奨する。「エラーをして指導者からどなられると、それがフラッシュバックして萎縮につながる。一生懸命プレーした結果なら『ナイストライ』と褒めるべき。そうすれば選手はトライを恐れなくなり、積極性に結びつきます」。ただ、相手は考え方が未熟な子供たち。褒め方にもテクニックがあるそうだ。「自分は座ったまま。選手は立たせ、筋肉の緊張を保った状態で褒めると効果的。『調子に乗らず、引き締めるところは引き締めろ』というメッセージも伝わる」とコツを明かした。

 〈2〉「するな」でなく「しよう」と助言

 言葉の使い方も重要だという。「指示を出す時は『〇〇するな』という否定形でなく、『〇〇しよう』と前向きに言った方がいい。命令するのでなく、大切なことに気づかせるように導くのです。また、日頃から選手の心に火をつける言葉を考えておくといい」とアドバイス。メジャーの監督が大事な試合の前、選手を奮い立たせるために話す内容を脚本まで書いて用意する例も紹介した。

 〈3〉ライセンス制度 年代別に設置を

 立花さんは「サッカーと違い、公式な指導者ライセンス制度がないことも問題」と指摘する。半世紀の歴史があり、公益法人でもあるボーイズリーグも「検討中」の段階。ほとんどの指導者がボランティアで務め、組織運営の予算も限られている事情から、「必要性は分かっているが、導入が遅れている」(飯田研二理事)という。「コストが問題なら資格取得は通信教育という手があります。動画サイトを活用してもいい。(小学生の)低学年、高学年、中学生などと年代別の資格を設けるべき」と立花さん。「私自身も、早大でクリーンアップを打った長男の玲央(会社員、習志野ボーイズOB)も、15歳の時にボーイズの日本代表に選ばれ米国へ行き、視野を広げた。親子でお世話になった野球のためなら、できることは何でも協力したい」とサポートを約束した。(芝野 栄一)

 ◆成長期の体の特性理解を

 講習会で立花さんは、成長期の子供の体の特性や、トレーニングのポイントも紹介。「若いうちから役割を理解し、鍛えておけば有利」として〈1〉股関節の柔軟性〈2〉体幹〈3〉肩甲骨の可動域〈4〉肩のインナーマッスル〈5〉野手の握力、投手の指力〈6〉足の指力、を挙げ、「(広島、ドジャースで活躍する)前田健太は15歳の時から(前に体を倒して両肩をぐるぐる回す)マエケン体操をしていた」と重要性を強調した。

 また、10歳前後が神経系が最も発達する「ゴールデンエージ」と呼ばれる時期であることを説明し、「野球だけやっていても俊敏性などは十分育たない。特に小学生はいろんなスポーツをして遊ぶこと」と助言。中学では持久力、16~17歳の時期は筋力が主に育つ時期だといい、「指導者が学んで、その時期にふさわしいトレーニングを課してほしい」と呼びかけた。

 立花さんは自身の指導法などを「立花龍司チャンネル」としてYouTubeにアップしている。

 ◆ティーボール入り口に

 連盟サイドも、現状を黙って見ているわけではない。横浜市小学生野球連盟では“野球への入り口”として、低学年の児童を対象にティーボール(台に置かれた球を打者が打つ野球に似た競技)大会を開催。4年生は、上級生と一緒では試合出場の機会が少なくなるため「4年生大会」を行い、早い時期から野球の楽しさを覚える工夫をしている。ボーイズリーグでは指導者や審判に講習会の参加を義務づけ、全体のレベルアップを図ることで選手確保につなげている。

 ◆立花 龍司(たちばな りゅうじ)1964年7月3日生まれ。53歳。大阪府出身。小中学生時はボーイズリーグのジュニアホークス(現大阪南海)でエース。浪商高(現大体大浪商高)、大商大と野球を続けたが、肩の故障で競技は断念した。天理大体育学部、筑波大大学院でコンディショニングを学び、近鉄、ロッテ、ニューヨーク・メッツなどでコーチを務めた。現在はジムと治療院を併設する「タチリュウコンディショニングジム」を千葉・習志野市、大阪・熊取町でプロデュースしている。

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