甲子園名物「智弁和歌山の人文字」が遂げた意外な進化の歴史

スポーツ報知
今年のセンバツ90回大会でも披露した人文字「C」

 第90回記念センバツ決勝戦は、大阪桐蔭VS智弁和歌山の近畿勢対決。東京アマチュア野球担当の私は、両校アルプスでの周辺取材に奔走した。智弁和歌山と言えば「C」の人文字。前応援団顧問の北村和英さん(62)に話を聞くと「当初は今みたいに強くなかったから『目の検査みたいや』って言われて。『カチーン』と来てね。これはやったろう、と」。まさか、そんな過去があったとは―。(取材、構成・青柳 明)

 4月4日の決勝戦。午前10時の開門と同時に、アルプス席では「C」の人文字を作る準備が始まった。チアリーダーが、赤い帽子と赤いウィンドブレーカーを応援席に置いていく。

 「C」の配置は、前応援団顧問の北村さんが、アルプスの座席表を基に、パソコンで作ったものだ。これによると、応援席はタテ27人×ヨコ33人で、計891人。そのうち「赤」の人文字に入る“精鋭”は、黒で塗られた部分の268人だ。

 続々と、生徒がアルプス席になだれ込んできた。座る席は決まっていないため「赤」と「白」は選べない。それぞれが置かれている帽子をかぶり、ウィンドブレーカーに着替えていく。赤白、どちらが人気なのだろう…。ということで「C」の最も左上にあたる、赤白の境に座った同級生2人組に話を聞いた。

 「赤」に入った生徒は「Cの人文字の中に入れたうれしさはありますね。智弁の応援と言えば人文字なので。でもこれ、帰りはバスまで脱げないんです。だから(球場の)外を歩くときは恥ずかしい(笑い)。あと、白の方が(日光を反射するので)暑くないと思います」と汗を拭った。「白」の生徒は「ギリギリセーフ、って感じですね」とニヤリ。「赤」を「当たり」とする生徒も「外れ」とする生徒もいるそうだ。

 決勝戦の甲子園は、最高気温22度。帽子が日よけになっているとはいえ、風を通さないウィンドブレーカーは暑い。白はチャックを開けても制服の白いワイシャツだが、赤はチャックを開けると白いシャツが目立ってしまうという。「だから脱げないんです…」と前出の生徒は嘆いた。

 今大会の応援責任者を務めた吉本教頭によると「C」が現在のようになったのは、初めて夏の全国制覇を達成した1997年以降ではないかという。「優勝したことで注目されて、アルプスの写真を見ると細くて、いびつな感じだった」。以前は「C」に丸みがあったことで「視力検査みたいや」とツッコミを受けたことがあったそう。今は米大リーグ・レッズやプロ野球・広島のロゴ、中大のブランドマークに似ていると比較されているが…。

 「報知高校野球」によると、甲子園に初出場した85年センバツでは、制服に赤いポンポン、赤いメガホンを持っている。その後、出場を重ねるごとに進化を遂げていったという。吉本教頭は「最初は帽子だけ。それから赤いTシャツを配って。でも、Tシャツは着替えが大変。管理も大変。1試合目ならいいけど、入れ替えだと時間がかかる。それに、休む生徒がいると、そこが空いてしまう(笑い)。ジャンパーなら、すぐに着たり脱いだりできる」。夏は半袖のシャツに赤いポンチョを羽織るそうだが、別の生徒は「半袖でもポンチョなので暑い」と笑った。

 チームは85年春の甲子園初出場から5大会連続初戦敗退と、数々の苦しみを乗り越えてきた。強く、太く、たくましくなった「C」の人文字が、これからもアルプスを鮮やかに彩る。

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