イチロー会長付特別補佐就任に　今季引退も「これが最後ではない」

　【シアトル（米ワシントン州）＝金岡美佐】マリナーズは３日（日本時間４日）、イチロー外野手（４４）がメジャー出場の前提となる４０人枠を外れ、会長付特別補佐に就任したと発表した。今季の残り試合は選手として出場せず、チームをサポートする。今季もユニホームを着たままで、来季以降に選手復帰する可能性が残されるという超異例の契約で、試合前に会見したイチローも復帰に意欲。来年に予定されている東京ドームでの開幕戦で、復帰が見られるかもしれない。

　今季はもう出番がないイチローだが、表情は晴れやかだった。「この日が来る時はボクは辞める時だと思っていました。その覚悟はありました。ただ、こういう（来季現役復帰の可能性という）提案がチームの方からあって、喜んで受け入れようという気持ちになった。（メジャー）１８年の間で最も幸せな２か月だった。とにかく毎日球場に来ることがハッピーで、その気持ちをかみしめていた」と笑みがこぼれた。

　チームは４４歳の最年長野手を選手から退団の手続きをするとともに、会長付特別補佐に就任を発表。今後は出場しないがユニホームを着て練習に参加し、クラブハウスのロッカーの位置もそのまま。この日もアスレチックス戦前に練習を行った。試合中はビデオルームで選手たちにアドバイスする環境を作る予定だ。球団は生涯契約を視野に入れているという。「大好きなチーム、大好きなチームメート。チームがこの形を望んでくれた。後押しはチームメートだった」と生涯マリナーズの決断理由を語った。

　昨季限りでマーリンズを退団し、今季は６年ぶりにマリナーズに１年契約で復帰したのが３月。開幕前に右ふくらはぎの故障や実戦での頭部死球の影響で調整が遅れ、１５試合の出場で９安打、打率２割５厘にとどまった。０１年以来のプレーオフ進出を目指すチームは開幕から好調で、負傷離脱していた正左翼手ギャメルも４月中旬に復帰。不振が続くイチローの去就が地元シアトルのメディアから取り沙汰されていた。

　異例の契約に踏み切ったＪ・ディポトＧＭは、今後もイチローに絶大な信頼を寄せる。「彼はダライ・ラマのような存在だ。みんなが教えを請いにいくという意味で。前例のない役割だが、彼はこれまで誰もやっていないことをしてきた」と話した。

　正式な肩書は会長付特別補佐だが、日々の行動、心構えはこれまでと変わらない。「喪失感みたいなものはない」と、すっきりした表情だ。気の合う同僚、信頼する首脳陣らと、今後も自然体でシーズンを送る。

　来年３月２０、２１日には東京Ｄでアスレチックスとの７年ぶり日本開幕２連戦が開催される。約１年のブランクでの復帰について、イチローは「イメージできないことはない。やってみないことには分からない。僕は野球の研究者でいたい。それも研究材料の一つ」と、慎重ながらも意欲をのぞかせた。来春、コンディションを整えたイチローが東京Ｄのグラウンドに飛び出しているはずだ。

　◆ダライ・ラマ　チベット仏教の最高指導者。「大海のような徳のある高僧」という意味がある。１５世紀初めの高僧ゲドゥン・トゥプが初代。現在のダライ・ラマ１４世は５歳で正式に即位。１５歳で全政治的権限を委任された。中国のチベットの侵攻により１９５９年、インドに亡命。その後、インドのダラムサラにチベット亡命政権を樹立。８９年、非暴力の闘いが認められ、ノーベル平和賞を受賞した。

　◆イチロー（本名・鈴木一朗＝すずき・いちろう）１９７３年１０月２２日、愛知県生まれ。４４歳。愛工大名電高から９１年ドラフト４位でオリックス入りし、９４年にプロ野球初のシーズン２００安打。マリナーズ１年目の０１年に２４２安打を放って首位打者と盗塁王を獲得し、ＭＶＰと新人王に輝いた。０４年は２６２安打で大リーグのシーズン最多安打記録を更新。１２年７月にヤンキースに移籍し、１３年８月に日米通算４０００安打を達成。１５年にマーリンズへ移り、１６年８月にメジャー通算３０００安打。今年３月にマリナーズに復帰した。１８０センチ、７９キロ、右投左打。