S・スタローン、H・フォード、Pニューマンを演じた“伝説の声優”羽佐間道夫の本能 

2017年8月5日10時0分  スポーツ報知
  • インタビュー中も美声を響かせた羽佐間道夫(カメラ・小泉 洋樹)
  • 9月に開催される「第10回したまちコメディ映画祭in台東」のポスター

 上野と浅草を舞台に映画ファンに愛されてきた「したまちコメディ映画祭in台東」(9月15~18日)が今年10回の節目を迎える。映画祭の人気企画となっているのが、無声映画に大物声優がライブでセリフを付ける「声優口演」。“生みの親”は、映画「ロッキー」シリーズのシルベスター・スタローンの声などで知られる羽佐間道夫(83)だ。吹き替え創成期から知る声優のレジェンドは、どんな素顔の持ち主なのか。重みある言葉からは、声で演じる奥義が垣間見える。

 スタローンを筆頭に、アル・パチーノ、ポール・ニューマン、スティーブ・マーティン、ハリソン・フォード、ジャン=ポール・ベルモンド―。そうそうたる世界的スターの声を担当してきた羽佐間は、ロマンスグレーが似合う紳士という印象。落ち着いた声質を生かし、数々のナレーションも務めてきた。

 「たくさんやってるってことは逆に言えば個性がない、とも言えるかもしれないよね」と謙遜する。取材中も、おなじみの美声が心地良い。吹き替えの洋画で育った者には、まるでスタローンと話しているような錯覚すら感じさせる。

 実際に演じている俳優と、声優が混然一体となる現象は、最上級の賛辞ともいえる。しかし、羽佐間は言う。

 「倒錯というかね。僕も以前、ある体育会から『マッチョマンについて講演を』という話がきたり。正直、あまりくっつけてほしくない気持ちだよね」

 そのスタンスは徹底している。スタローン来日時、本人から何度か「会いたい」と打診があったが、一貫して断っており、いまだ対面は実現していないという。一言、お礼が言いたかったのかもしれないのだが。

 「いやいや、どんなやつがやってるのか、単なる興味本位だったと思うよ。でもあちらは腕の太さだって僕の脚くらいあるんだから。会わない方がいい、と思って逃げ回ったんだよ」

 決して地声で演じているわけではない。あのロッキーの声の誕生も壮絶な裏話があった。海辺に行き、喉から血が出そうになるまで浄瑠璃をやって声をガラガラにした。もがき苦しんで生まれた声だった。役ごと、人物ごとに自身を追い込み、とことん“研究”する主義だ。

 「我々は外国人にコンプレックスがある。特に低音の共鳴の仕方は全然違う。スタローンの声を聞けば聞くほど、野獣のような叫びにも近い。英語のセリフに日本語を乗せる時点で無理がある。でもね、本当に彼がしゃべっていると思わせたいからね」

 あれから約40年たち、感慨深いものもあるに違いない。ボクシングシーンでのセリフも並大抵ではなかった。

 「この仕事自体、一種のスポーツ。呼吸を読み、わずかな間に対応しないといけないから」。消耗度は激しく、演じる度、とてつもない疲労感に襲われた。

 30歳の頃、衝撃を受けた。文楽の人間国宝だった4代目、竹本越路大夫に会った時、座頭沢市とその女房、お里が出てくる名作「壺坂霊験記」の話になった。「目の見えない人が『お里か?』と聞くとき、まず声が聞こえる方へ耳をもっていく。発声のしかたが全然違ってくるんですよ」と言われた。

 「その瞬間。それこそ、ぶわぁ~っと世界観が変わってね。声で表現することこそが、芝居の本当のリアリズムじゃないのか、って思ったね」

 半世紀以上も前に聞いたこの話が、羽佐間の声優道の原点。しかし、その道を極めながらも、まだ守りに入るつもりはない。80歳を超えたが、毎朝5時に起床してのランニングが日課。生卵こそ飲まないが、ロッキー顔負けのストイックさを維持している人だった。

 「声優口演」豪華共演陣 

 羽佐間は今年も下町コメディ映画祭で「声優口演ライブ」(9月18日、不忍池水上音楽堂)に出演。「没後40年チャップリン特集」と題し、野沢雅子、若本規夫、山寺宏一の一流声優陣が登場する。

 今年9回目となる好評企画で、今回は「チャップリンの勇敢」「犬の生活」が上映作に。無声映画にライブでセリフを吹き込み、作品をよみがえらせる。舞台で披露される巧みな声の技術と共演者との絶妙なやり取りの真剣勝負が見どころだ。“発案者”の羽佐間は「でもね、チャップリンがこれを知ったら、許してくれなかったと思うよ」とポツリ。

 「『僕はあくまで無声映画をやってるんだ。そのためにどれだけ手や体の動きを考えて撮ったか計り知れない。それを君はだな、リップシンクロ? 冗談じゃない!』と言ったんじゃないか。会ったら、パチッと殴られたかもしれないね」

 一時はそんなことも考えたが、若者や自身の孫までもが感動して喜ぶ姿を見て、名作復活に一役買っていることを感じながらやっている。

 ◆羽佐間 道夫(はざま・みちお)1933年10月7日、東京都生まれ。83歳。新劇の俳優を志し、舞台芸術学院を経て50年代から声優の道へ。外国俳優の吹き替えのほか、「巨人の星」の速水譲次などのアニメ、皇室番組などテレビのナレーターとしても知られる。赤穂浪士の四十七士のひとり、間光興の子孫で、兄は元NHKアナ、羽佐間正雄氏。

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