中村吉右衛門、9月に「命を懸けてやってきた」10回目「秀山祭」

2017年8月13日12時0分  スポーツ報知
  • 9月の歌舞伎座で昼夜公演ともに大役を演じる中村吉右衛門

 9月の歌舞伎座は、おなじみ「秀山祭」(1~25日)。歌舞伎の人間国宝、中村吉右衛門(73)が2006年に始めて今年、10回目を迎える。「幡随長兵衛」など昼夜に大役を演じ、さらに自身の脚本による「再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)」を歌舞伎座で初上演。芸の伝承を考え、今作では監修も務める。節目の公演にどんな思いで臨むのだろうか。(内野 小百美)

 吉右衛門は、「感動を基礎としない芸術は芸術ではない」の名言も残した仏画家セザンヌが好きだ。これは役者の使命にも通じる。「演じる役の心が、お客様の心に入り込み、心揺さぶり、感動させ、楽しませる。そういう役者でありたい、と思い、やってきました」

 名優、初代吉右衛門の功績をたたえ、芸を継承するために初代の俳名を冠に当代が始めた「秀山祭」。10回の節目。感慨めいた言葉が出るかと思ったが、むしろ逆だった。「オーバーかもしれませんが、命を懸けてやってきたつもりです。これからもそうありたい。これが天命、天職だと思い、信じながら」

 昼夜5つの演目が並び、「幡随長兵衛」「ひらかな盛衰記」では主演。「『秀山祭』は、気軽にさらっと見られるようなものはありません。これも初代吉右衛門の芝居に対する考えから。お客様を、より深いところで感動させたい思いがあるのです」

 中でも異色作が、当代の筆名、松貫四(まつ・かんし)で書かれた「再桜遇清水」だ。「自分がつくったもので面はゆいのですが。(松竹から)どうしてもやるように、ということで」と照れくさそうに説明する。今回、出演はせずに全体の監修を務める。

 あらすじは、千葉之助清玄(中村錦之助)の恋人で北條時政の娘・桜姫(中村雀右衛門)に心を奪われた清水法師清玄(市川染五郎)は、不義の罪で寺を追放。真実の破戒僧となり、桜姫への執心を果たそうとする。

 今作は、自身が復興に尽力した四国こんぴら歌舞伎で知られる金丸座(香川)での上演(85、04年)を目的につくられた。江戸時代の芝居小屋が現存し、その空間で生まれるものを求めた。「その江戸の香りを、どこまで感じてもらえるか。自分が人間国宝であるのも『もっと江戸(時代)の文化を伝えろよ』と言われているのだと思う」

 以前、吉右衛門が演じた早変わりもある2役を今回引き継ぐのが、おいで44歳の染五郎だ。「彼のことだから、ちゃんとやってくれるでしょう」と信頼を寄せ、「彼には彼の考えがあるから、無理強いはしません。でも初代吉右衛門の芸を継承し、秀山祭を続けていける中の1人になってくれればうれしい。来年の(10代目松本幸四郎)襲名も年齢的にいい時期と思います」と期待する。

 9月の公演が「お客さんがタイムマシンに乗って江戸時代にいる感覚に錯覚させることができたら…。成功ということではないでしょうか」と言って目尻を下げた。

 ◆若手指導で自ら学ぶ

 吉右衛門の代表作のひとつに「一條大蔵譚」があるが、今夏は複数の若手に指導。「技術はマネすればできる。気持ちを大事にやりなさい、と言います」と話す。「でも教えるのは本当に難しい。自分で演じる方が何倍も楽ですよ」と苦笑い。教わって懸命に取り組む姿を見ながら「あれ、自分にはこんなクセがあったのか、と気づかされることもあるんですよ」。後輩の芸を“鏡”に自身を見つめ直すこともあるという。

 ◆初代中村吉右衛門 1886年生まれ。父は3代目中村歌六。幼少時より芝居にたけ、6代目尾上菊五郎と「菊吉」時代を築き、戦後は歌舞伎界の頭領的な存在に。俳句、弓道も極め、趣味も芝居に生かした。享年68。当代の2代目は初代松本白鸚の次男。祖父である初代の養子になった。屋号は播磨屋。

 ◆秀山祭 初代吉右衛門の生誕120年を記念し、その功績を顕彰し、芸を継承することを目的に2006年に始まった。初代にゆかりの深い演目が選ばれる。今年は昼の部「彦山権現誓助剱」「道行旅路の嫁入」「幡随長兵衛」、夜の部「ひらかな盛衰記」「再桜遇清水」。坂田藤十郎、中村雀右衛門、尾上菊之助らが出演。

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