女優・内田慈 映画「ピンカートンに会いにいく」こじらせアラフォー役で初主演 20日公開

スポーツ報知
「アイドル的なポーズで」の注文に、七変化の表情を見せてくれた内田慈

 舞台から映像へと活躍の場を広げている女優・内田慈(ちか、34)の映画初主演作となった「ピンカートンに会いにいく」(坂下雄一郎監督)が20日に公開される。かつてアイドルグループを組んでいたアラフォー女子5人が20年の時を経て、再結成に向かっていく物語。こじらせ系アラフォーを好演した内田は「スタートラインに立てたような気がしているんです」と語る。

 「ブッ飛んでる人ですよね」

 元アイドルグループのリーダーで、20年の時を経て再結成を目指す「こじらせ系アラフォー」。フツーの女優ならオファーの返事に少々時間を要したくなるような役柄だが、内田は即断した。

 「速攻でやります、とお伝えしました。私、なぜか元アイドルの役が多いんです。単体では出られなくなったAV女優がSMの責め師を頑張る、みたいなのもありますけど(笑い)。きっと残念な感じがするんでしょうね…。だから、元アイドル役の集大成になるんじゃないかと…」

 演じたヒロイン・優子は常に不平不満と鬱屈(うっくつ)を抱え、うまくいかないとすぐに感情的になる。穏やかな人柄に見受けられる内田とは正反対のキャラクターにも映るが…。

 「いや、けっこう共通点あります。ベラベラと悪態をつくのに自分の思いは全然話さないこととか、やたら人のせいにすることとか、バレバレなウソもバレてないと思ってることとか…」

 輝くはずだった過去を封印し、リアルな現実と向き合ってきた5人が再びステージ上でスポットライトを浴びるクライマックスシーンのグルーブ感はハンパではない。

 「5人ですぐ意気投合して。撮影前のレッスン初日に仲良くなってました。先生にビシバシ指導されてたら部活感が出て。夏だったし、青春っぽかったです。2時間後には中華料理屋さんにビールを飲みに行って、ぶっちゃけトークしてました。こないだも座談会をしてみんなで久しぶりに会ったんですけど、最初から『イェーイ!』ってなって」

 確かに、観客も心で『イェーイ!』と言いたくなる作品になってもいる。

 「なんだか…撮り終えてスタートラインに立てたような気がしているんです、今」

 19歳でさっそうと舞台デビュー。フリーとして劇団を横断しながら東京・下北沢の小演劇界を沸かせたが、ステージに上がる1年前まで何をすべきかなど何も分からなかった。

 「ちょっと不良っぽいチームにもいて、好きでもないインディーズのビジュアル系バンドを好きとか言うような人間でした」

 人生を変えたのは、2000年10月26日深夜の45分間だった。NHKの人物ドキュメンタリー番組「トップランナー」で劇作家の松尾スズキを追った画面にくぎ付けになった。

 「松尾さんの言葉も舞台の映像も全部面白くて『なんだ、この世界!?』って思ったんです」

 放送中、好きな言葉を問われた松尾が「『平等』です。だって、あり得ないじゃないですか」と語った言葉には雷に打たれたような思いがした。

 「言葉のセンスと、本当のことを言ってくれる大人だと思って。目の前には暗い道しかなかったのに、パッと開けたような気がしました」

 舞台女優を志し、1浪して日大芸術学部に入ったが、すぐやめた。教室よりも、小劇場のステージの上の方が多くのことを学べた。

 30代半ばを迎え、映画やドラマにも活躍の場を広げている。

 「もちろん舞台は特別な場所ですけど『舞台の人だよね』は悲しいし、逆に『最近、映像が多いけど移っちゃった?』も悲しい。軸足は決めずに歩いていきたいです」

 監督の一言 

 坂下雄一郎監督「繊細な演技をされる方という印象だったので、今回はどうなるのだろうか、という思いがあったのですが、繊細と誇張の間を行くような主人公のキャラクターをうまく演じてくださいました。比べるような人はあまりいないタイプの女優さん。自分はアテ書き(特定の俳優を念頭に脚本を書くこと)はしないのですが、最近は書きながらふと、内田さんだったらどう演じるかな…と考えてしまったりします」

 ◆内田 慈(うちだ・ちか)1983年3月12日、横浜市生まれ。34歳。日大芸術学部文芸学科中退後、劇団には属さずフリーで舞台出演を始め、小劇場界で人気を得る。映画は2008年の「ぐるりのこと。」でのスクリーンデビュー以降「ロストパラダイス・イン・トーキョー」「恋人たち」「葛城事件」などに出演。本作公開直後の27日にも、ヒロインを務めた「神と人との間」が公開される。

芸能

×