日野美歌、代表曲「氷雨」にまつわる秘話 佳山明生との確執は…

スポーツ報知
「『氷雨』は私の人生に寄り添ってくれた宝もの」と語った日野美歌(カメラ・小泉 洋樹)

 日本の名曲の魅力に迫る「にHo!んの歌」。今年の第1回目は、日野美歌(55)の代表曲「氷雨」(作詞・作曲・とまりれん)。デビュー年の1982年に発売し、50万超えのヒットを記録した。オリジナル(77年)を歌った佳山明生(かやま・あきお、66)も再発売し、80万枚と大ヒットしたが、日野がNHK紅白歌合戦に出場。当時、険悪な仲が取りざたされたが、「佳山さんが歌い続けてたから曲と出会えた」と日野。「一生の宝もの」と語る同曲の秘話を聞いた。

 外は冬の雨~まだやまぬ―。哀愁を帯びた歌詞と佳山の甘い歌声で有線を中心に人気に火がついた「氷雨」。日野の同曲との出会いは偶然だった。

 「当時のマネジャーが新宿のピアノバーでママさんが歌う『氷雨』を聴いて、『この曲は女性が歌った方が伝わる』と。事務所の上層部は(82年)4月に『私のあなた』でデビューして早々に競作で歌うことに反対する声もあったけど、アレンジを変えて、オリジナル感を出して10月頃にレコーディングしたんです」

 演歌調のデビュー曲から一転、フォーク調の2枚目シングルとなった。

 「歌うことが決まった後に佳山さんの『氷雨』を聴いて『これ、好きかも』と。(佳山版から)フォーク調の歌謡曲にアレンジされて、よりメロディアスで雨にぬれた世界観を表現してくれた。もともとユーミン(松任谷由実)さん、高橋真梨子さんのバラード曲をよく聴いていたので、自分の好きな世界に近づいたなとうれしかったです」

 歌の主人公は、酒場で一人、お酒を飲みながら別れた男を思う女。当時19歳ながら、大人の悲恋を歌い切った。

 「大人っぽい容姿で恋愛経験豊富に見られてたけど、恋愛は奥手で。当時、20歳になっても一人で居酒屋に行く勇気はなくて、想像を巡らせながら歌いました。失恋してあの人は帰ってこないという気持ちを酒場で話しかけるようにレコーディングしました。その夜、うれしくてホテルで(深夜の)12時頃に録音テープを聴いて大声で歌ってたら、従業員の人が来て『お客さま、お静かに』と注意されちゃいました」

 発売から2か月後の83年2月にはヒットチャートの上位に入り、50万枚のヒットを記録した。

 「スナックを1日7~8軒回って手売りしてた時を考えると、恐ろしい反応でした。『ザ・ベストテン』とかテレビ番組で何度か歌うと反響が大きくて、レコード会社へのバックオーダーが1日1万枚とか、桁違いで来たんです。何か始まっちゃってるぞ、ヤバイぞ…と、てんやわんやでした」

 人気は意外なところにも波及していた。

 「十数年後に仕事で会った男性から小学生の遠足で『氷雨』をよく歌ったと言われて、はぁ?って感じ。遠足のしおりに、細川たかしさんの『北酒場』とか『氷雨』の歌詞を入れて歌ってたみたい。子供が酒場の歌を歌うのは意外だったけど、いろんな形で曲が受け入れられてたんですね」

 同年の紅白歌合戦に初出場。「紅白はプレッシャーを楽しんで歌えました。トロフィーをもらったようなステージで、『氷雨の日野美歌』をより世間に知ってもらえました」。人気は絶頂に達したが、複雑な思いもあった。「道を歩けば『氷雨の人!』と指をさされて、嫌で仕方なかった。どこかで普通の人でいたい気持ちもあって、慣れないことを1年目で遂げてしまいナーバスになってました」

 佳山が77年に「氷雨」を発売後、レコード会社の担当者が死去。未申請だった出版権が別のレコード会社に売られたことで、82年に日野が発売するに至った。佳山も81年12月に再発売、82年7月に再々発売し、83年2月からオリコン11週連続で2作同時にトップ10入り。佳山版も80万枚とヒットしたが、紅白に出場できず、対照的な境遇に「犬猿の仲」とも報じられた。

 2人は14年のTBS系「爆報! THEフライデー」で「氷雨」を歌い、“和解”のデュエットとして話題となったが、日野は「確執なんてないですよ」と笑う。「佳山さんは優しくて、いいアニキです。当時、ライバルとして取り上げられたけど、佳山さんが先に曲を出してて、売り上げも上。同じ歌がいつもベスト10に入って、相乗効果でヒットできた。私の知らないところでいろんな大人の事情があったけど、佳山さんがずっと歌ってくれたから曲に出会えた。感謝しかない」

 36年間の歌手人生は「氷雨」とともに歩んできた。

 「宝ものです。最近ではジャズバージョンを出したり、キャピキャピしたアイドルの歌と違って大人になっても私や皆さんに寄り添ってくれる歌。ずっと大事に歌い続けたいです」。

 デビュー37年目の日野は昨年7月、自身が作詞・作曲した「いのりうた」を発表。生きることをテーマにした壮大なバラードで「混沌(こんとん)とした時代に、心に光りを持って生きていこうというメッセージを感じてほしい」と語った。4月8日には横浜市のライブハウス・シャノアールで、毎年恒例のライブ「サクラカフェ」を開催。8~9月には特攻隊をテーマにした朗読劇「遠き夏の日」とソロライブのイベント「かたりべ家族」を行う。

◆日野 美歌(ひの・みか)1962年12月21日、神奈川県鎌倉市生まれ。55歳。中1で日本テレビ系「スター誕生!」に挑戦し、9点届かず合格を逃す。82年「私のあなた」でデビュー。同年発売の「氷雨」がヒットし、83年NHK紅白歌合戦に初出場。86年に葵司朗とのデュエット曲「男と女のラブゲーム」が大ヒット。2003年「歌凛」のペンネームで作詞を始める。趣味は酒場巡り。愛称はミカリン。身長160センチ。血液型O。

 【1982年の世相】

 ▼ホテル・ニュージャパン火災▼日航機が羽田沖で墜落▼500円硬貨が発行▼夏の甲子園で池田高が初優勝▼プロ野球・落合博満(ロッテ)が3冠王獲得▼鈴木善幸首相が退陣、中曽根康弘内閣発足▼洋画「E.T.」が大ヒット▼日本レコード大賞は細川たかし「北酒場」▼NHK紅白歌合戦のトリは紅組・都はるみ「涙の連絡船」、白組・森進一「影を慕いて」

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