思い出される優しい目、極寒撮影も「全然構わないよ」…大杉漣さんを悼む

スポーツ報知
大杉漣さんの主演映画「グッバイエレジー」(昨年3月公開)のワンシーン

 映画「ソナチネ」「HANA―BI」などに出演し、ドラマやバラエティーでも親しまれた俳優の大杉漣(おおすぎ・れん、本名・大杉孝=おおすぎ・たかし)さんが21日午前3時53分、急性心不全のため死去した。66歳だった。

 道を歩いていると大杉さんの訃報が飛び込んできて、思わず大きな声を出してしまった。1年前のちょうど今ごろ。主演映画「グッバイエレジー」でインタビューした。つい先日、その時のことをぼんやり振り返ったばかりだったからだ。

 個性の強い役が多かったが、真っ先に思い出されるのは優しい目。インタビュー後、手がかじかむほど寒い屋外での撮影をカメラマンが頼むと「全然構わないよ」。強風吹く階段で立ったり、冷たいところに座ったり。写真を見ると、誠実な人柄がにじみ出ていた。

 取材の理由はいくつかあった。映像で活躍する大杉さんの芝居の原点は舞台。長い下積みを経て成功したと思われがちだ。「皆さん下積みとおっしゃる。そう思ったことは一度もない。役者は生涯、下積み。“下積む”って感覚の持ち方の違いでね」。人生分からない。沈黙劇で知られた劇団「転形劇場」にいた。「(旗揚げした)太田省吾という劇作家、演出家が好きで。もし解散(88年)しなければずっとそこにいて演劇を極めるつもりでした」

 転機はオーディションに大遅刻しながら出演が決まった北野武監督「ソナチネ」。運命の岐路をはっきり覚えていた。「ヤクザ役だとつい何かをしたくなる。でも監督は『そこにいて』と。芝居の極力排除、という意味に思えた。『転形劇場』のメソッド(方式)とつながっていた。この時ですよ。自分の培ってきた“沈黙スタイル”が映像でも生かせる場所があるかもしれない、と思えたのは」

 唯一、嫌悪感のような表情を見せたのは、よく「苦労人」と言われることについて聞いた時。下積みとはまたニュアンスが違う。「じゃあ今は苦労してないのか? って思うし。一生、研さんを積む覚悟があるのか。それをずっと自分に問い続けてますよ」。穏やかな口調とは対極にある、厳しさと覚悟を垣間見た気がした。

 もちろん「バイプレイヤーズ」の話にもなった。「僕は最年長でリーダー的でしたけど、共演者から精神年齢は小3と指摘されたりね。居酒屋では何十何円まで割り勘。部活の延長みたいでみんなかわいくてね」。優しい顔を、さらにほころばせて話していた。しかしあまりにも唐突、あっけなさ過ぎる。いま、これを書きながら不思議な感覚にとらわれている。(編集委員・内野 小百美)

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