【アカデミー賞】辻一弘氏、日本人3年ぶりのオスカー「オールドマンに心から感謝」

スポーツ報知
米アカデミー賞の主な日本関連の受賞者・受賞作

 第90回アカデミー賞の授賞式が4日(日本時間5日)、米ハリウッドのドルビーシアターで行われ、メーキャップ&ヘアスタイリング賞には「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」(30日公開、ジョー・ライト監督)から辻一弘氏(48)が選ばれた。82年に設立された同部門で日本人が受賞するのは初。日本人のオスカー受賞は14年に宮崎駿監督(77)が名誉賞を受賞して以来3年半ぶりの快挙となった。

 3度目のノミネートでようやく手にした栄冠。スピーチで最初に口にしたのは名優への感謝だった。

 「ゲイリー・オールドマンに心からの感謝を述べたい。あなたと素晴らしい旅に出られたことは本当に光栄で、あなたがいなければ今日ここに立っていません」

 12年に映画界を引退。肖像彫刻家として活動していた時、受賞作で主演したゲイリー・オールドマン(59)から直々に口説かれた。

 「あなたが引き受けてくれなかったら、私はこの映画に出ない」

 困難を克服した歴史上の人物を題材にしたいとの思いもあったことから、熱いラブコールを受諾。その作品で見事オスカー像を手にした。

 辻氏は京都市・平安高校(現・龍谷大平安高)出身。卒業後は日本の特殊メイクの草分けである江川悦子さんの工房で働き、その道を突き進んだ。現代芸術家に転身後は、今にもしゃべりだしそうなリンカーン大統領などを制作。そんな辻氏の作品に感銘を受けたのがオールドマンだった。

 楕円(だえん)形の顔のオールドマンを、ぽってりとしたチャーチル元英首相に近づけるのは苦難の道のりだった。60歳間近の皮膚は緩く、素材が一緒に動きづらく「顔に何か張ってある」とばれてしまう恐れがあった。

 シリコーンのやわらかさや形を試行錯誤して半年。約3時間半かけて完成し、ようやくカメラの前に現れた“チャーチル”に辻氏は感動した。「ゲイリーさんはメイクをつかって演技するには何が大事かを理解し、チャーチルの独特な唇の動き方など研究したことも組み合わせていた。彼でなければ成り立たなかった」

 名優を似ても似つかない偉人に変身させた技術は高い評価を受けた。栄誉ある祭典で自分の名前を呼ばれた辻氏は、驚きと緊張でメガネをかけ忘れ、苦笑い。「夢がかなえられました」と興奮気味に語り、オールドマンへの感謝の思いを続けた。熱烈なオファーを「最高のタイミング」と振り返り、「素晴らしい俳優で、熱心なアーティストで、真の友人。私たちは歴史的偉業を成し遂げられた」と感無量の表情を浮かべた。

 ◆辻 一弘(つじ・かずひろ)1969年5月25日、京都市生まれ。48歳。10代から特殊メイクを独学で学び、87年にメーキャップの巨匠、ディック・スミスと文通で師弟関係を築く。黒澤明監督「八月の狂詩曲」の制作に参加。96年「メン・イン・ブラック」に携わるため、渡米。07年「もしも昨日が選べたら」、08年「マッド・ファット・ワイフ」で米アカデミー賞メーキャップ候補になっていた。

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