【王手報知特別版】スポーツ報知将棋観戦記者座談会2「藤井六段の出現は長嶋茂雄さん、オグリキャップ以来のインパクト」

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スポーツ報知主催棋戦女流名人戦の観戦記を担当している(左から)内田晶記者、松本哲平記者、大川慎太郎記者、相崎修司記者

 空前のブームが吹き荒れ、列島を揺るがした2017年度の将棋界も、16日の将棋大賞授賞式で棋士たちに各賞が贈られ、一区切りを迎えた。18年度を占う前に、もう一度考えたい。17年度とはどんな1年だったのか―。スポーツ報知が主催する岡田美術館杯女流名人戦を始め、各紙誌でそれぞれ健筆を振るう観戦記者の内田晶記者、大川慎太郎記者、相崎修司記者、松本哲平記者が座談会を開催。対局室で戦う棋士たちの目の前で歴史的瞬間を目撃した記者たちの視点とは―。(司会・北野新太)

 ―2017年度の将棋界は喜ばしいニュースがたくさんありましたけど、なんといっても藤井聡太六段の大活躍に勝るものはありません。将棋界の枠を越えた一種の社会現象でした。

 内田「四段昇段を決めた(2016年9月)時の会見を取材した時は、優しそうで少し地味なタイプだなあと思っていたんですけど…初めて観戦した時、将棋盤に向かっている姿を見て、なんて華のある子なんだろうとギャップにビックリしました。ひょうひょうとしているけど、どっしりもしている。負けた後に悔しさをあらわにしたことで話題になった叡王戦本戦の深浦康市九段戦も観戦させていただいたんですけど、悔しがる姿を見て逆にホッとしましたから。あぁ、まだ中学生らしいところもあるんだなあって」

 相崎「藤井さんの登場によって将棋界は明らかに変わったと思うんです。で、たった1人の存在がその世界を一変させたことが他の業界でも過去にどれほどあったのかということを考えてみたんですね。例えば、1992年のバルセロナ五輪で当時中学2年生の岩崎恭子さんが金メダルを獲得したことはものすごい偉業です。でも、競泳界を一変させた、というところまでは達してはいない気もするんです。もちろん時代の違いという部分はあると思うんですけど…。で、浮かんだのは立教大のスターだった長嶋茂雄さんが巨人入りした1958年です。私は生まれていませんでしたけど…野球人気が一気に六大学からプロ野球にシフトしたと言われていますよね。あと、80年代の終わりに『アイドルホース』と称されたオグリキャップの存在も競馬の魅力を一般の人々まで浸透させたとされていますよね。藤井六段の登場と活躍は、それらと並び称せるくらいのインパクトを将棋界にもたらしたと思います」

 ―皆さんの目から見て、どのくらいの強さと映っていますか?

 大川「間違いなく言えるのは、今も力をつけて強くなっていることです。歴代新記録の公式戦29連勝を記録した頃はレーティング(棋力の指標)は将棋界全体の20位くらいでしたけど、もう1ケタまでランクを上げています。このまま藤井さんが強くなり続けると、将棋界はどうなっちゃうんだろうと心配になるくらいですね」

 相崎「1996年に羽生さんが七冠独占を成し遂げた時は、あれ以上に到達する場所がない瞬間に起きたフィーバーでした。もちろん、藤井さんの29連勝や史上最年少での全棋士参加棋戦優勝(朝日杯)も到達点ではあると思いますけど、まだまだこれから先がありますからね」

 内田「振り返ってみるとデビュー直後にAbemaTVさんの企画で(羽生善治竜王らトップ棋士7人と非公式戦を戦った)『炎の七番勝負』を経験できたことは大きかったと思います。新人があれだけの棋士と指せることはまずないので、大きな経験となってポテンシャルが引き出されたのだと思います」

 ―強さの裏側には、詰将棋の才能があるという意見もあります。

 松本「詰将棋の能力がすごいから強い、という単純な話ではないと思いますけど、読みの量やスピードには詰将棋のアドバンテージが発揮されているようにも感じます。詰将棋のように、明確な狙いを持ち、到達出来るように読み進めていく力には、すごいものがあるのではないでしょうか」

 内田「感想戦を取材していても、表に出ていない詰み手順を藤井六段が指摘するシーンは度々ありますからね」

 松本「あと、デビュー当初とは戦い方が変化していますよね。当初は思いもよらない攻めを見せて勝つようなイメージでしたけど、今は受けに回って相手の攻めを見切って勝ったり。相手がどのように攻めてくるかを読み切って勝つ、というプロセスには、やはり詰将棋の効果を感じます」

 大川「得意な勝ちパターンというものがないですからね。何をやらせてもすごい」

 ―羽生竜王を超えられるか、なんていう気の早い声もあります。羽生竜王は現在、タイトル通算100期を目指して名人戦を戦っている。まだ1期もタイトルを獲得していない棋士との比較は成立しない気も…。

 松本「今までは『~さんは羽生さんを超えられますか』という質問自体があり得なかった。問い掛けを違和感なく受け入れられること自体が驚異的なことだと思います」

 相崎「羽生さんが出てきた時に『羽生の比較対象は中原(誠十六世名人)や谷川(浩司九段)ではない。同世代や後輩たちだ』という論調がありました。藤井六段にとってもそうなのかもしれないですね。これから、どのような同世代や後輩が現れてくるか。谷川九段に憧れた羽生世代の多くが将棋界入りし、羽生世代が後輩を奮起させ、藤井六段がポスト藤井にあたる世代の出現を促す…。歴史は繰り返されるのかもしれない」

 大川「今、藤井六段のブームで将棋を始めた人たちが5年後、10年後に必ず台頭してくると思います。彼らの世代には、初めからソフトのみを研究対象にした人が含まれるはずです。藤井六段はソフトの影響で強くなった、なんて言われることもありますけど、実際には棋士になるまでアナログな方法で力をつけてきた。全く異なります。藤井六段の後に続こうとするソフトネイティブ世代がどういう将棋を指すようになるかはかなり興味深いですね」

 松本「あと、17年度を語る上で忘れてはならないのが、藤井六段と四段昇段同期の大橋貴洸四段です。藤井六段がいなければ、ものすごい大型新人がやってきたと騒がれてもおかしくない成績(昨年度46勝12敗)を残しています」

 相崎「順位戦参加初年度としては羽生竜王(1986年度・40勝14敗)より上ですからね。同期にとてつもない人がいて目立ってないだけで…」

 大川「トップ棋士が見る限り、彼は相当深くソフトを研究しているようですね」

 相崎「対藤井戦でも2勝(2敗)を挙げています。これからが楽しみな存在ですね」

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