是枝裕和監督、挑戦5度目でパルムドール「悲願ってよく新聞に書かれるんですけど、言ったことは一度もなくて…」

スポーツ報知
パルムドールを受賞し笑顔を見せる是枝裕和監督

 フランス南部で開催されていた世界三大映画祭の最高峰「第71回カンヌ国際映画祭」授賞式が19日夜(日本時間20日未明)に行われ、是枝裕和監督(55)の「万引き家族」(6月8日公開)が最高賞「パルムドール」に輝いた。日本映画の同賞獲得は今村昌平監督の「うなぎ」(1997年)以来21年ぶりで5作目。5度目の出品で快挙を達成した是枝監督は壇上で「足が震えています。本当に幸せ」と喜びを爆発させた。23日に帰国する予定。

 今年のパルムドールは、コレエダ―。審査委員長の女優ケイト・ブランシェット(49)が発表した瞬間、客席にいた是枝監督は、少しうつむきながら相好を一気に崩した。両隣の通訳らと抱擁を交わし、この日一番の歓声と拍手を受けながら壇上へ。ブランシェットからトロフィーを受け取ると、感激で思わず「うわぁ」と声を漏らした。

 普段は冷静沈着なことで知られるが、スピーチでは「いや、ちょっと…さすがに足が震えてます」と素直に緊張を告白。「この場にいられることが本当に幸せです。そしてこの映画祭に参加するといつも思いますが、映画をつくり続けていく勇気をもらいます」と続け、喜びをかみしめた。

 是枝監督がカンヌのコンペティション部門に出品するのは5作目。2作目の「誰も知らない」(04年)で当時14歳の柳楽優弥が男優賞を、3作目の「そして父になる」(13年)が審査員賞を受賞。5度目の挑戦で日本作品21年ぶりの最高賞にたどり着いた。

 授賞式後もトロフィーを手に取材に応じ「まさか自分がもらえる賞だと思っていなかった、正直言うと」と想定外を強調。カンヌでは受賞者には事前に“内定報告”があるのが通例だが、何の賞かは分からず「発表順が毎年違うので、気が付いたらグランプリ(最高賞に次ぐ賞)とパルムドールしか残っていなかった。周りがザワザワしてきたので、不安な気持ちもありつつという感じでした」と振り返った。「(トロフィーが)すごい重い。腕がガチガチ」と笑顔を見せつつ「別の意味でも本当に重い。この賞をもらった監督として、恥ずかしくない作品をまた作らなければならないなという覚悟を新たにしています」と、賞の重みも実感した。

 作品ではリリー・フランキー(54)、安藤サクラ(32)、樹木希林(75)らの実力派が“家族”を演じ、13日の公式上映以降、海外メディアの賛辞が飛び交っていた。ブランシェットは授賞理由を「演技、監督、撮影など総合的に素晴らしかった」と説明し、絶賛した。是枝監督は日本で吉報を聞いた出演陣には、授賞式後にLINEで写真を送るなどして報告。「今回は本当にキャストとスタッフのチームワークがとてもうまくいったので、僕自身の持っている能力以上のものがたたえられたのかな」と感謝した。

 ◆是枝監督に聞く

 ―壇上での気持ちは?

 「珍しく緊張していたので、とりあえず通訳している間にしゃべることを考えていました」

 ―監督にとってパルムドールとは?

 「悲願ってよく新聞に書かれていたんですけど、言ったことは一度もなくて…。賞というのは目標にするものではないといつも思っています」

 ―今後どういう映画に挑戦したいか?

 「海外の役者たちと一緒に映画をつくるというチャレンジに向かってみようかなとここ数年思っています」

 ―帰国してやってみたいことは?

 「リリーさんとかサクラさん、子どもたちも含め、トロフィーを持って会えるといいなと」

 ―樹木さんはなんとおっしゃると思うか?

 「天狗(てんぐ)にならないように」

 ◆是枝 裕和(これえだ・ひろかず)1962年6月6日、東京都練馬区生まれ。55歳。早大卒業後の87年に番組制作会社「テレビマンユニオン」で数々のドキュメンタリーを制作。95年の映画初監督作品「幻の光」がベネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞受賞。カンヌには2001年に「DISTANCE」で初参加。他の作品に「歩いても 歩いても」「海街diary」「三度目の殺人」など。

 ◆「万引き家族」 都会の片隅の平屋でひっそりと暮らすある一家。家の持ち主の祖母(樹木)の年金を頼りに、父(リリー)と息子(城桧吏)が万引きで日用品を補い、母(安藤)とその妹(松岡茉優)と共に貧しいが仲むつまじく暮らしている。ある日、父が連れてきた幼い女の子(佐々木みゆ)を迎え入れ、娘として育てようとするが、やがてある事件が起き、家族それぞれの秘密や関係性が明らかに。是枝監督のオリジナル脚本。

 ◆カンヌ国際映画祭 仏南部のリゾート地カンヌで毎年初夏に開かれる映画祭。ベネチア国際映画祭、ベルリン国際映画祭とともに世界三大映画祭と呼ばれる。1946年に始まり、2度の中止を挟んで今年で71回目。最高賞「パルムドール」は勝利の象徴「黄金のシュロ」を意味し、カンヌ市の紋章にちなむ。斬新な作品を集める「ある視点」、映画祭事務局と対抗し、独自に注目作を集める「監督週間」「批評家週間」も並行開催されている。

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