橋幸夫と吉永小百合「いつでも夢を」…歌詞にある「あの娘」って誰?

スポーツ報知
ミリオンセールスを記録したシングル「いつでも夢を」のレコードジャケット

 歌手の橋幸夫(75)と女優の吉永小百合(73)のデュエット曲「いつでも夢を」(作詞・佐伯孝夫、作曲・吉田正)は、1962年に日本レコード大賞を受賞し、100万枚を突破した。互いに多忙なためレコーディングは別々で、ステージでのデュエットは数回のみ。このほどインタビューに応じた橋は「一緒に歌録(ど)りしたかったし、もっとたくさんデュエットしたかった」と寂しさをのぞかせた。

 青春歌謡のスターの橋と青春映画のマドンナの吉永は、同じビクター所属で作曲家・吉田正氏(98年死去、享年77)の門下生だった。62年。夢のコンビによる「いつでも夢を」は、ビクターのディレクターの発案で誕生した。

 「小百合ちゃんの担当だった武田京子さんが『2人で青春路線の歌がいいのでは』と吉田先生と佐伯先生に提案して決まった。彼女は映画で青春路線ではじけて、僕も青春ものを模索してたからピッタリだった」

 当時、橋はデビューから3年でレコード40枚を発表、吉永は年間10本以上の日活映画に出演。互いに多忙で予定が合わず、レコーディングは別々に行われた。

 「雑誌のグラビアで何度か会ってたけど、一度も2人で練習できずにレコーディングを迎えたら、彼女がいない。先に入れた彼女の声をイヤホンで聴いて歌った。当時は初めてです。ユニゾンだから何のことはなかったけど、バンドの生演奏がないのも初で『これでいいのかな…』と思った」

 吉永ありきの曲だと痛感した。

 「曲のピッチを少し速くして、ジャケット写真も彼女が目立ってた。キーも上が高くて彼女は声出るかなと思ったけど、当時は高い声が出てた。彼女は歌手経験が浅くて声が非常に細くて、ユニゾンだとあまりデュエットに感じないから逆にハモりたかったな」

 気になる歌詞があった。

 「『あの娘はいつも歌ってる』のあの娘は誰だと。小百合ちゃんかと思って佐伯先生に聞くと『歌って人生の夢につながるステキなことを教えてくれる女性』と。当時は説明がなくて考えながら歌ってました」

 9月に発売したが一度も2人で歌うことなく、同曲が主題歌で2人が共演した映画「いつでも夢を」(63年公開)の撮影に入った。

 「僕はトラック運転手役で、小百合ちゃんは勝ち気な看護師役がハマリ役だった。12月初めに荒川の土手でロケしてたら、休憩中に日活の宣伝マンが飛んできて『レコード大賞決まりました~』と。彼女やみんなでバンザイして喜びました」

 初デュエットが実現したのは12月末。日比谷公会堂で行われた日本レコード大賞の受賞発表会だった。

 「やっと歌えると喜んでたら、ハプニングですよ。リハーサル後に作曲家の先生が『困ったよ。客がいない』と。レコ大が4年目であまり認知されてなかったんです。急いでビラをまいて、本番はたくさんお客さんが来てくれました」

 NHK紅白歌合戦では4度歌ったが、すべて橋のソロだった。

 「2人の歌なのに、俺が嫌われてるのかと思ったね(笑い)。武田さんが何回口説いても彼女は『私、歌はダメですから』と頑固だったみたい。昔からしっかり者で頑張り屋な一方で、自己主張がすごく強い人。だからこそいまだにサユリストに愛されてるのかな」

 2010年。橋の芸能生活50周年のコンサートで、吉永と42年ぶりにステージでデュエットした。

 「断られると思ったら快く歌ってくれてうれしかった。実は僕が本番前に目まいがして三半規管がおかしくなって、フラフラになりながら2時間半歌ったんです。小百合ちゃんが楽屋で僕の体調がおかしいのを見てたので、『何とか私が助けたい』という母性本能みたいな気持ちを感じた」

 生涯でステージ共演は数回と少ない。

 「少し寂しいよね。彼女が一時期歌うのをやめたりしたのもある。デュエットだから一緒に歌録りしたかったし、もっとたくさん2人で歌いたかった」

 同曲は63年のセンバツ高校野球の入場曲やウーロン茶のCMに起用。13年のNHK朝ドラ「あまちゃん」、昨年の紅白歌合戦でも歌われ、55年以上愛されている。

 「繰り返しでサビまで持っていく吉田メロディーが見事に出てる。高度成長期の時代に『夢』は大事な言葉だった。今でも夢を持つことは大事だと聴く人が感じてくれて親しまれたのかな」

 発売は64年東京五輪の2年前。悲願の五輪初開催に沸く日本を象徴する曲だった。次の東京五輪が行われる20年に77歳、デビュー60周年を迎える。

 「僕や三波春夫さんが歌った『東京五輪音頭』は形を変えて今でも歌われてる。でも、リメイクじゃなくて新しいバージョンで『いつでも―』を送り出すのもいいね。僕も2年後は喜寿。御三家では舟木(一夫)も歌い続けてるし、西郷(輝彦)もがん闘病から復帰へ頑張ってる。僕が一番年上だから力を発揮したい」

 【1962年の世相】

 ▼国内のテレビ契約台数が1000万台を突破。英国を抜いて世界第2位のテレビ王国に

 ▼高校野球・作新学院が史上初の甲子園春夏連覇

 ▼東京都が世界初の1000万人都市に

 ▼米女優マリリン・モンローが36歳で死去

 ▼ビートルズがレコードデビュー

 ▼キューバ危機

 ▼NHK紅白歌合戦のトリは紅組・島倉千代子「さよならとさよなら」、白組・三橋美智也「星屑の街」

 ◆「君の手を」7・25新曲発売 橋は通算181枚目のシングルで、林よしことのデュエット曲「君の手を」を7月25日に発売する。デュエットは、ステファニーと歌った87年の「スターダスト上海」以来31年ぶり。パートナーへの感謝をテーマに、軽快なメロディーで歌う。橋がデビューした1960年をイメージした曲で「街に音があふれた昭和の風景と洋楽への憧れが入り混じった、どこか甘酸っぱい時代。自分自身も60周年を前に原点に戻るのもいいなと」と思いを語った。

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