【平尾昌晃・生涯青春】(18)「よこはま・たそがれ」大ヒット!

2017年3月2日14時0分  スポーツ報知
  • 平尾昌晃

 五木(ひろし)君は見事に全日本歌謡選手権で10週勝ち抜いた。自信もあったと思うが「もし落ちたらどうした」と聞いたことがある。「弾き語りを続けていたと思います」と言っていた。弾き語りでもかなりの収入を得ていたらしいが「もう一度勝負したい」という気持ちが強かったのだろう。再デビューでまず考えたのが三谷謙という芸名だ。地味な名前で正直、これじゃ売れないと思い、レコード会社の徳間康快社長に相談したところ「名前変えてもいいよ。俺も三谷なんて知らなかったから」。

 すぐに(山口)洋子ちゃんが動く。「姫」の常連客だった作家の五木寛之さんに「ねえ、五木さんの名字を頂いてもいいかな」とおねだりすると、店で彼の弾き語りを聴いていたらしく「すがすがしくていい男じゃない」と了承してくれた。苗字は五木と決まったが、下の名前はちょっと迷った。業界では数字を入れると験がいいとされていたが、既に「五」が入っている。何となくという感じで“ひろし”になったが、それを平仮名にしたのが洋子ちゃんのセンスだ。水商売をしているから、そのあたりの鼻は利くのだろうか。なるほど、漢字では地味になるが平仮名は覚えやすいしリクエストも書きやすい。

 デビュー曲「よこはま・たそがれ」は洋子ちゃんの詞から誕生した。「何篇(ぺん)か作ったからみて」と連絡が入り「姫」の上の喫茶店に行ってみると五木君はじめ所属事務所「野口プロモーション」の野口修会長、キックボクサーの沢村忠らが顔をそろえていた。詞は8篇ぐらいあり普通の詞の中に1つだけ毛色の違うのが…。「よこはま たそがれ ホテルの小部屋」とつづられていた。ただ言葉が並ぶ珍しさに興奮してコーヒー2、3杯を一気に飲んだ。「面白い。これで曲作れるのかな」。じっと見ていたら浮かんできた。これを8、4ビートに乗せていくとどうだろう。♪よこはま(タンタン)たそがれ(タンタン)―と言葉の継ぎ目に間を入れると乗るんじゃないか。頭の中でサビ前までメロができたので「悪いけど帰るよ」と詞を抱えて帰宅し、すぐギターで曲を付けていった。

 しまいの部分で行き詰まった。♪あの人は 行ってしまった―。淡泊に思えて考えた揚げ句♪行って行ってしまった―としたらビシっと決まった。すぐに音を録(と)って翌日に洋子ちゃんに「できちゃったよ」と電話すると「え~、もう」と驚いていた。「詞を勝手に直したけど」と断ってから聴かせると「いいわよ。すごくいい。これでいきましょう」。この曲で五木君は71年のレコ大歌唱賞に輝き、紅白歌合戦にも初出場を決めスターの階段を上っていくのだった。

(構成 特別編集委員・国分 敦)

 ◆歌手・五木ひろし

「平尾昌晃先生との出会いは昭和45年10月、背水の陣で挑んだ全日本歌謡選手権でした。1週目のゲスト審査員として私の歌を聴いていただき、その時に『企画さえ合えば面白いのではないか』とコメントをしていただきました。その言葉は、私に夢と希望を与えてくれました。2週目のゲスト審査員が山口洋子先生、そこから私の運命を変える『よこはま・たそがれ』が誕生しました。出会いはいつも不思議なものです。ご縁が人の運命をも変えるのですから。私が今あるのは平尾先生、そして山口先生のおかげです」

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平尾昌晃・生涯青春
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