来年還暦のレジェンド・前田日明氏の嘆き「日本のプロレスは力道山の時代から変わっていない」

スポーツ報知
24日の「前田日明生誕祭」トークショーで用意されたバースデーケーキのロウソクを吹き消す前田日明さん(左)とゲストの水道橋博士

 四半世紀ぶりに息がかかるほどの近距離で言葉をかわした、その人の大きさは以前と全く変わっていなかった。

 24日、東京・渋谷のイベントスペースで開催された元プロレスラー・前田日明さんの誕生日を祝う「前田日明生誕祭×THE OUTSIDER10周年記念イベント」。この日59歳になった前田さんが、お笑いタレント・水道橋博士(55)らをゲストに招き、今年、旗揚げ10周年を迎えた自身主催の不良少年たちを集めた格闘技イベント「THE OUTSIDER(ジ・アウトサイダー)」について語るトークショーを取材した。

 約100人の熱狂的ファンが詰めかけた2時間に及んだイベント終了後、控室横の狭い通路で直接、話を聞く機会を得た。

 前田さんと“差し”で話すのはリングスのエースとして輝きを放っていた92年以来25年ぶり。当時、私はプロレス欄を担当。群馬県のスポーツリハビリ施設の温泉病院で前十字靱帯断裂という大ケガのリハビリ中の「新格闘王」を直撃。リハビリ漬けの毎日だった前田さんとオセロゲームで対決したのも、いい思い出となっている。

 99年のアレクサンダー・カレリンとの引退試合から19年。192センチの長身こそ変わらないが、腹回り中心にちょっとお肉のついた巨体は威圧感たっぷり。この日もバラエティーなどでもおなじみの“前田節”は全開だった。

 現在、人気を集めるRIZINについて「プロモーターとして見ると、やっているプロモーターが選手を育てるという余裕が全然ないように見える。3、4年先はどうするの?って。何か、焼き畑農業みたいな感じを受ける」とバッサリ。

 還暦目前のプライベートの“下半身事情”についても「下の子が2歳になるけど、まだまだ!」と脱線発言まで飛び出した。

 放送禁止となったアンドレ・ザ・ジャイアントとのセメントマッチ、伝説のドン・中矢・ニールセン戦、長州力の顔面襲撃事件…。現役時代から数々の伝説に彩られ、プロモーターとしても新生UWF、リングス、そして10周年を迎えたアウトサイダーとリング界随一の新規開拓の才能に恵まれた男の口調が一変。目にギラリとした光が宿ったのは、狭い廊下で「前田さんの古巣でもある新日本プロレスは4日の東京ドーム大会に3万4995人の大観衆を集めるなど好調に見えますが?」と、新日の独り勝ちにも見えるプロレス界の現状について聞いた瞬間だった。

 「日本のスポーツイベント、特に格闘技の世界は力道山の時代から変わっていないんですよ、やっていることとシステムが。資金を募って切符の売り上げだけを見て、テレビ(中継)とか順繰り順繰りに回していく。テレビがなくなったらダメ。売り上げが落ちたらダメ。なんか綱渡りをやっている。プロモーターもやっているうちに資金調達に追われて、大きな大会ができなくなっている」と熱い口調でまくし立てた。

 「テレビ業界が格闘技に目向かなくなってしまうと、ヘビー級のトップの選手には100万ドル・プレーヤーとかいっぱいいるから、どこも(招聘資金を)出せなくなるし、発掘すると言っても、世界中に情報網引く資金もないし…。格闘技の興行って、無名だけど素質のある選手を育てて、チャンスを与えて、勝負の場を与えて、注目集めてっていう方法でやらないといけないのに、みんな資金的なことに追われて、そこまでできてないんですよ。RIZINがいい悪いでなくて、大変なのも分かるけど、根本が変わらないとダメってことですね」と続けた。

 「日本のプロスポーツの中で安定しているのは野球と相撲だけ。野球だって(1959年の)天覧試合以降でしょ、経団連に入っているような超一流企業が球団経営するようになったのは。相撲はなんだかんだ言って守られている。極端なこと言えば、天覧試合できるような大会できないと日本の国の中では認められないですよ、安定経営しようと思ったら」と独自の見解を示した上で「プロレスという業態には可能性がいっぱいあるんですよ。全部(の団体を)統合できるような可能性もある。今は結末の決まったショーでしょみたいな見方されたりしてますけど、可能性は大きいんですよ」と、プロレスの未来に思いを馳せた。

 目標とする先達がいる。「日本の興行スタイル、根本を作ったのは力道山ですから。自分がリングスで世界ネットワークと言ったのも、元は力道山のワールドリーグ戦ですから。IT化時代の中でさも新しいもののように見せましたけど、全部、力道山の時から変わってないです。大相撲のような洗練された形が本当はいいんでしょうけど」と目を輝かせた前田さん。

 「55くらいで何となく(体力的に)落ちたなと思ったこともあったけど、元気です」と大きな体を揺すって笑う反面、藤波辰爾(64)がリング復帰を熱望するなど、ファンの間で期待される選手としての復活については「ないですね。俺のプロレスはやってはいけないプロレスだから…。今、60代の人たち相手にそれをやったら大変なことになる」と、きっぱり否定した。

 最後に「きちんと会見して発表しようと思っているけど…」と前置きした上で「リングスを超えた、何年先も見据えた大きなものをやりたい」と明かしてくれた前田さん。

 「新格闘王」の中に今も脈打つプロレスへの過剰なほどの愛情―。取材記者としてブランクこそあったが、追いかけ始めてから25年。その背中はいつまでたっても大きく、これからも追いかけ続ける対象として光輝いて見えた。(記者コラム・中村 健吾)

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