「ファンは休んで欲しいと思ってますが…」そんな質問を忘れさせた棚橋弘至の底抜けの笑顔

2018年3月10日12時0分  スポーツ報知
  • 右ひざ変形性関節症を克服し、43日ぶりにリングに上がった棚橋弘至
  • 43日ぶりのリング復帰に笑顔を見せた棚橋弘至

 取材に向かう途中から「絶対、聞こう」と心に決めていた質問が、いざ選手を前にして口から出なくなった。久しぶりにそんな経験をした。

 9日夜に行われた新日本プロレスの東京・後楽園ホール大会。右ひざ変形性関節症のため、1月30日の青森大会から欠場していたエース・棚橋弘至(41)が6人タッグマッチで43日ぶりにリング復帰した。

 1月27日のIWGPインターコンチネンタル・ヘビー級戦で右ひざへの執拗な関節技を食らい、欠場の直接的な原因となった現王者・鈴木みのる(49)とのマッチアップ。棚橋は待ちわびた満員札止め1719人のファンからの「ゴー、エース!」「タナ~!」という熱いコールを全身に浴び、いつも通りの太陽のような笑顔を浮かべ、華やかに入場した。

 この日の試合にどんな決着が待っていても、棚橋がどんなファイトをしようとも私には聞きたい質問があった。「ファンは強行出場でなく、完治するまでゆっくり休んでくれることを棚橋さんに望んでいるんじゃないですか?」。後楽園ホールに向かう電車の中でノートに質問を書き留めるほど、「絶対、聞こう」と思っていた。

 手元には1月末、「棚橋欠場」の記事を本紙webにアップした際のファンからのコメント100件以上のコピーもあった。当時、驚かされたのが、棚橋の早期復帰を望む内容がほぼゼロなことだった。

 「ここ数年は見ていても痛々しくなるくらい試合のクオリティが落ちていた。ようやくDL(故障者リスト)入りできたということ。ゆっくりケガを治して!」

 「右ひざ変形性関節症は本来、高齢者に多いケガ。長年の酷使でヒザが悲鳴をあげているんだから、長期欠場を勧めます」

 「試合を見られないのは辛いけど、ファンは理解しているから。タナの復帰をじっくり待ってます」

 コメントの大多数を占めたファンの棚橋への思いがこれだ。オカダ・カズチカ(30)や内藤哲也(35)が台頭するまで10年以上、1人で新日を背負ってきた「100年に1人の逸材」。あえて自分から「エース」を名乗り、一時はスポーツ新聞記者を目指していた「言葉の力」でバラエティーにも多数出演。休日を返上して地方のラジオ局やタウン誌まで回り、大会をプロモーション。広報マンとしての役割まで長年に渡って果たしてきた男の頭に長期欠場という選択肢がないことは分かっている。

 実際、この日は「スイーツ真壁」としてバラエティーにも引っ張りだこの人気者・真壁刀義(45)が右ひざ負傷のためドクターストップがかかり、急きょ欠場。試合前のアナウンスで「真壁欠場」が発表されると、「え~!?」という失望の声があふれた。新日は昨年来、本間朋晃(41)、柴田勝頼(38)、EVIL(31)とリング上で負った大ケガのため、長期欠場者が相次ぐ状態。棚橋が真壁欠場のアナウンスの際の観客の失望の声を控室でどう聞いたかは想像しなくても分かる。

 しかし、こちらの勝手な心配とは裏腹に、この日の棚橋のファイトは素晴らしかった。ゴングと同時に急襲してきた鈴木に右ひざを攻められるシーンもあったが、痛みを感じさせない高角度のドロップキック、必殺のスリングブレイドで対抗。10日の春のシングル戦トーナメント「ニュージャパンカップ」初戦で対戦するタイチ(37)に顔面を執拗(しつよう)に蹴られる場面もあったが、闘志満々の表情でにらみつけると、逆にスリングブレイドで蹴散らして見せた。

 そして試合後のバックステージ。43日ぶりとは思えない試合内容に安堵(あんど)こそしたものの、両ひざの同様の症状に苦しむ名レスラー・武藤敬司(55)が3月末に金属製の人工関節を埋め込む手術に踏み切るほどのレスラーの職業病が右ひざ変形性関節症。それだけに、冒頭の質問だけはしようと心に決めていた。

 だが、自慢のロングヘアまでびっしょりの汗まみれで引き揚げてきた棚橋はいきなり「復帰戦を無事、終えました」と笑顔を満開にした。昨年11月にも右ひざ骨挫傷のため、12月11日の福岡大会まで欠場。今年1月4日の東京ドーム大会でやっとリング復帰を果たした経験を踏まえ、「今年は復帰戦が(1・4に続いて)2度目ですか。もう二度と復帰戦がないように、サクッとタイチを倒して、その先に行きます」と笑わせた後、問題の右ひざについても「まだ、ジャンプとか、リング上での動きのシンクロがちぐはぐなところがあるけど、早急に直します」ときっぱり。その後、「あ~、帰ってきたあ!」と、さわやかに言い放った。

 あまりにさわやかな笑顔と、その全身からあふれる「やり切った感」の前に、“どうしても聞きたかった質問”は、のど元でストップしてしまった。これが、「プ女子」(プロレスファンの女性)の心を長年時めかせてきた「100年に1人の逸材」「太陽の天才児」の持つポジティブ・パワーなのか。

 目の前の底抜けの笑顔に圧倒されているうちに「ただ帰ってきたわけじゃないから。目標持って帰ってきたから、ニュージャパンカップ優勝っていう目標をね」。真の新日のエースは、そう言って、まるでさわやかな春の風のように去っていった。(記者コラム・中村 健吾)

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