「僕しかいないという空気に持って行きたい。自分が一番、楽しみです」…飯伏幸太70分間インタビュー(3)
女性ファンの心をわしづかみにするルックスと強さを兼ね備えたプロレスラーとして抜群の人気を誇るのが飯伏幸太(35)=飯伏プロレス研究所=。最高の舞台・新日本プロレスで大暴れの一方、バラエティ番組にも引っ張りだこの「ゴールデン☆スター」は「常に進化しか考えてません。プロレス界の歴史を変えたいと思っています」と豪語。70分間に渡って熱い思いを語った。(ペン・中村 健吾、カメラ・小泉 洋樹)
―今、IWGPヘビー級王座V10で新日最強のオカダ・カズチカをどう思う?
「オカダさんはやっぱり…。努力しているし、元々持っているものがある。僕の中で上の上の上くらいにいるので今年中にライバルと言わせるくらいの位置に行きたい。オカダさんが(棚橋の持つV11の)記録を抜いたところがベストチャンス。そこで僕しかいないという空気に持って行きたい今、誰が勝てるんだという状態ですよね。(棚橋のV11の)記録を抜きそうな感じもします。その抜いたところが僕のベストチャンスですよ」
―そこで飯伏しかいないと?
「僕しかいないという空気に持って行きたいです。まだ、やることはいっぱいあるので、やることをやって、その位置まで持って行きたいですね」
―ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」で大人気の内藤哲也は?
「すごいですね。一気に来たんで。内藤さんとは同い年で昔から仲いいのもあるし、お互い意識している部分あって。今は向こうの方が上に行っているんで。あまり自分が言う資格はないですけど、内藤さんよりは上に行きたいですね。正直、行けると思います」
―新日のエース・棚橋弘至はどんな存在? 昨年8月1日の故郷・鹿児島でのG1では勝っているが―
「自分の中では本当に超えたとは思っていないので。本当に神を超えたいと思っています。この間のタイトルマッチでちょっと超えられなかったんで、もう一度、何かをきっかけに棚橋さんの持っている物を全部、吸収して、本当の神超えをしたいと思ってます」
―フリーの立場だから、新日だけ盛り上げるというわけにも行かない―
「新日だけでというのは違うというのはあるけど、僕はプロレス界全体をプロモーションしていきたいという気持ちがあります」
―今後、「ゴールデン☆スター」Tシャツを着た人があふれる状況も―
「それはいいですね。むちゃくちゃ、うれしいですね、そうなったら」
―男性ファンも多い―
「結構いますね。意外に昭和のプロレスファンで応援してくれる人もいる。その層が一番難しいファン層なんですよね。認めさせるのが一番難しい。昔を見ていたファンはなかなか、今のプロレスを認めてくれないところがあるんで、そこを認めさせるというのが僕の中でも燃えている部分。そこは強さだと思うんで。強さに昔のファンは心が動いているわけで、その部分が今のプロレスは減っているのかなと。その部分を出して行きたいと思います」
―だから、今年の1月には昭和のプロレスを象徴する長州力ともタッグを組んだ―
「長州さんのプロレスと今のプロレスと何が違うんだろうっていうのを感じたかったっていうのがあります。昔のプロレスって全然違うものだなというのは感じました。全く媚(こ)びない。プロレスのルールより自分が戦うという。本当、それだけですよ。長州さんが自分のパートナーの伊橋(剛太)にすごく怒った。それは笑いが起こったということに怒ったんです。プロレスをやっているのに、なんで笑いが起きるんだって。笑いのプロレスならいいけど、笑うようなプロレスじゃないのにって。それは実力不足だって怒ったんです。そこの部分は自分はすごく影響されましたね、そうなんだなって」
―飯伏幸太の戦いで笑いの起こる余地はない―
「例えば、自分だって飛び技を失敗したり、(ロープから)足を踏み外したら笑われるのかなとは思うし。やっぱり、もっと戦いの部分に寄せていってもいいのかなと、長州さんとリングに上がらせてもらって思いました」
―リング上で怖すぎる表情を見せることもある―
「怖い部分というよりも、もっと、プロレスリングをやろうと。言い方が難しいけど、もう少し泥臭くていいのかなと感じてます。反面、今の若いファンに対しては、もっとポップな感じで行きたいってのもあります。バランスが本当、難しいんですけど、二つが合わさったら、ものすごいものになるなって、長州さんとの戦いの中で感じました。あの時、自分の中に取り入れたし、全部、分かりました」
―でも、かっこいい部分は手放せない―
「スタイリッシュな部分もファンが求めてくるので、そこは絶対になくしたくないです。本当に少しですけど、(泥臭い方向に)微調整しようかなと思っているんです。常に進化しか考えてないので」
―ケガの恐怖は?
「小、中、高でそのへんは乗り越えてきたんで。見ている側は見たことがない高さから飛ぶんで恐怖感を覚えると思うんですけど、僕は中学校の頃、これ以上、高い所から飛んでるし。いっぱい経験しているんで。恐怖はそこまではないですね。大ケガもしたことないので、試合中に。それは大丈夫だと思う。自分の中では自分に見合った動きをしていると思ってます。無理をしたら、もっと、もっと危ない感じになると思うんですけど、元々、無理はするつもりもないし、できる範囲でやっているつもり。自販機の上から(のダイブ)? あんなの小中学校ですね、全然(笑い)」
―心身のリミッターを外すことはない?
「たまにリミッター外れちゃう時あるんですけど、その時は本当に危なくなるんで。リミッターが外れた瞬間に感情移入する人もいるんで、そこが難しい所ですね」
―今後、プロレスの戦いはどこまでエスカレート?
「過激になって、試合時間も長くなっているけど、僕はそれは必要ないなと思っているんで。15分あればいい。(15年の)中邑(真輔)さんとのベストバウトもたぶん、19分くらいしかやってないし。その前もタッグマッチでプリンス・デイビットとやった試合も15分くらいなんで。プロレスに時間は全然、必要ないと思ってます。長いといい試合みたいにレスラーは思いすぎてますよね。なんとも僕は思わないです。長くやればいいというものではないと。去年、すごい長いプロレスが流行ったけど、ああいうのは全く必要ないし、興味もないというか。60分やったからなんだという。8分でもベストバウトは獲れると思うし、6分でも人の心に響けば、ベストバウトになると思います」
―時空を超えた新しいレスラーとして、場所も時間も超越している―
「新しいんですかね? それが新しければいいんですけど。ただ、バカなことやっていたという歴史にはなりたくない。10年後、20年後を振り返って、今やっている現在のこれが新しいプロレスだったって言われていたら、うれしいです」
―唯一無二の天才という人もいる―
「これは感性ですね。感性プロレス。感覚でやってきたプロレスがこうなってますね。天才って、みんな言ってくれるんですけど、何が天才なんですかね。小さい頃から周りの人を喜ばすのが大好きだったし、喜んでくれるなら、自分の体が滅んでもいいと小さい頃から思ってたんで。でも、今は多少変わってきて、滅びるのがダメなんだなと思ってます。一番喜ばれないことなんだなっていうのが分かったんで、まあ、そこはいろいろ成長している部分なのではないのかなと。欠場とかが一番ダメなんだなと去年、一昨年の休みで分かりました」
―休んだことが良かった?
「みんな待っててくれたし、す~ごい良かったですね。体も少し壊れてたんだなっていうのもやっと分かったし、全部治って、すごい体も健康になって。ケガも治って精神面も回復したし、今まで無駄なことをいっぱいしてきたんですけど、本当、後悔が一つもなくて。本当にその瞬間、瞬間、そんなのやらない方がいいよとか、ケガするよとか、危ないよとか、それは面白くないんじゃないかなと言われたことも全部やってきて。無駄だと思うことも全部、無駄にやってきて。でも、それが無駄じゃないなって今、感じてます。それをやってきたのが今の自分なので…」
―2018年の「飯伏幸太」を見ることができる人は幸せだ―
「そう思っていただければ、うれしいです。僕も楽しみです。自分が一番、楽しみです」
◆飯伏幸太(いぶし・こうた) 1982年5月21日、鹿児島・姶良(あいら)市生まれ。35歳。キックボクシングや新空手に熱中後、2004年7月、DDT東京・後楽園ホール大会でのKUDO戦でレスラーデビュー。09年からは新日本プロレスに参戦。ケニー・オメガとのタッグチーム「ゴールデン☆ラヴァーズ」で活躍。11年にはIWGPジュニアヘビー級王座を奪取。13年、DDTと新日のダブル所属を発表。15年にはAJスタイルズの持つIWGPヘビー級王座に挑戦するなどエース格に成長も16年2月、両団体からの退団を発表。個人事務所・飯伏プロレス研究所を設立し、フリーランス選手として各団体のリングに立つ一方、路上プロレスなどの活動も。愛称は「ゴールデン☆スター」。181センチ、92キロ。