負けても「エース」は美しい…「新日の太陽」棚橋弘至は永遠に沈まない

スポーツ報知
負けても絶対に沈まない「新日本プロレスの太陽」棚橋弘至

 男としての立ち姿の美しさ―。そんなことを考えさせられた1週間だった。

 2日、都内のホテルで行われた人気グループ「TOKIO」のメンバー4人の緊急会見を取材した。山口達也(46)が強制わいせつ容疑で書類送検され、起訴猶予となった事件を受けたリーダー・城島茂(47)らの会見。その詳細は速報原稿として「スポーツ報知」のwebにアップしたので繰り返さないが、4人が壇上に並んだ時にまず感じたのが、涙ながらに山口を責めた松岡昌宏(41)、長瀬智也(39)らのシルエットの男としての美しさ、格好良さだった。

 不謹慎かも知れないが、結成25年を迎えるジャニーズの人気グループ「TOKIO」の4人を見て「やはり、選ばれた男たちは黙って立っているだけでも美しい」―。正直、そう感じてしまった。

 同じことを、その2日後、福岡国際センターで行われた新日本プロレス「レスリングどんたく2018」大会のメインイベントでも感じた。絶対王者オカダ・カズチカ(30)に棚橋弘至(41)が挑んだIWGPヘビー級戦。191センチ、107キロのオカダと181センチ、101キロの棚橋。多分、日本プロレス史上最も美しいルックスを持つ2人がリングで対峙(たいじ)した瞬間、「美しい」「かっこいい」―。立場を忘れ、一ファンのようにそう思った。

 そして、札止め6307人の大観衆の前で行われた34分36秒の激闘。勝ってIWGPヘビー史上最多の12回連続防衛を果たしたオカダ以上に美しく、気高かったのが敗者・棚橋だった。

 強すぎるオカダへの反感か。判官びいきの満場の「タナハシ」コールを背に「新日のエース」としての強さを見せつけた。徹底したオカダのヒザへの攻撃、「オオ~ッ」と雄たけびを上げながらの気迫満点の張り手、オカダの必殺技のレインメーカーを逆に決める「掟破り」の攻撃まで繰り出して、絶対王者をあと一歩まで追い詰めた。

 最後はオカダの本家・レインメーカーの前に敗れ、3年3か月ぶりの王座復帰はならなかった。しかし、両肩をヤングライオンに抱えられ引き上げていく、その顔は確かに満足げな笑みを浮かべていた。

 2週間に渡って繰り広げられた前哨戦でオカダはレスラーの職業病・右ひざ変形性関節症の悪化から今年に入って2回の故障欠場を繰り返した棚橋への苛立ちを隠さなかった。タッグマッチで対戦するたびに「もう、あんたは棚橋さんじゃない。棚橋だ。あなたの得意技は欠場ですか」と散々、揶揄してきた。

 しかし、そんなオカダも、この日の試合後、「棚橋さん、強かったよ。ナメてましたけど、強かった。あの棚橋に勝てて良かったです。あんなにしぶといと思わなかったから、キツかった。本当にキツかった…」と絞り出すように言った。

 オカダよりも正直だったのは、会場を埋めたファンたちの反応だった。棚橋の入場時から「ゴー! エース」の大合唱。右ヒザ故障の原因と言われる必殺技・ハイフライフローを何度も繰り出す捨て身の戦いぶりに客席の多くの女性ファンが涙を流していた。

 そう、誰もが元オーナーのアントニオ猪木氏(75)の推し進めた格闘技路線の失敗や積み重なった負債で経営難に陥った2000年代の新日を「エース」として支え続けたのが、誰かを知っている。

 オカダや内藤哲也(35)が台頭し、V字回復を遂げるまでの10年以上をメインイベンターとして支えてきたのが「100年に1人の逸材」棚橋だ。あえて自分から「エース」と名乗り、始めは失笑を買った「愛してま~す」の決めぜりふも完全に浸透させた。

 そこには一レスラーの立場を超えた努力があった。立命館大に1日10時間以上の受験勉強の末、一般入試で合格した努力の人。一時はスポーツ新聞記者を目指していた「言葉の力」でバラエティーにも多数出演。休日を返上して地方のラジオ局やタウン誌まで回り、大会をプロモーション。睡眠4時間で広報マンとしての役割まで長年果たしてきた男の新日への、ファンへの熱い思いを知っているからこそ今でも誰もが棚橋を「エース」と呼ぶ。

 私もこの2年間の新日取材の中、東京・後楽園ホールで、両国国技館で、棚橋の勝利後の儀式・エアギターと客席を回っての笑顔でのハグで多くの観客を包み込む唯一無二のグルーブ感を何度も体感してきた。そこには、この男しかファンに与えることができない「プロレスを見る幸せ」が、確かに存在した。

 時には自虐的に「僕は格好いいだけなんです。後は(レスラーとして)普通なんですね」と、つぶやくこともある棚橋は、この日の敗戦後もバックステージで汗まみれの顔で、こう、つぶやいた。「負けちまった。でも、もっと強くなるから。過去の自分を超えて見せるから…」。

 そう、この日勝った新日にカネの雨を降らせる「レインメーカー」オカダは千両役者として、本当に格好良かった。マイクパフォーマンスも最高だった。でも、男として最高に格好良かったのは、どんな逆境でも前を向き続ける「敗れざる者」棚橋だったのではないか。棚橋弘至という「新日の太陽」は永遠に沈まない―。そんなことを思った。(記者コラム・中村 健吾)

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