長嶋三奈さん、傘寿を迎えた父・茂雄さんを語る(前編)

2016年2月21日18時12分  スポーツ報知

 巨人軍・長嶋茂雄終身名誉監督(報知新聞社客員)が20日、80歳の誕生日を迎えた。「ミスタープロ野球」として日本のスポーツ界をリードし、2013年には教え子の松井秀喜さん(41)とともに“師弟”で国民栄誉賞を受賞。04年に脳梗塞で倒れてから必死のリハビリを経て苦難を乗り越え、今もファンに元気な姿を見せてくれる長嶋さん。傘寿(さんじゅ)という人生の節目に、スポーツキャスターとして活躍してきた次女・三奈さん(47)が娘から見た「長嶋茂雄」を語ってくれた。(取材・構成 谷口 隆俊)

 80歳。父はまだまだ新しい一面を見せてくれています。

 80歳近くになると、父に対して、どなたも敬語で、父の方がかしこまって接する機会が少なくなっています。事務所に(13年10月31日の)園遊会にお招きいただいた時の写真が飾ってあるんですが、満面の笑みで、それでいて少しかしこまっている父が写っています。天皇、皇后両陛下の前で、普段は見せない、はにかみつつ尊敬の念を持ったスマイルなんです。

 先日、「サワコの朝」(MBS・TBS系毎週土曜日・前7時半)という番組に出演した時、司会の阿川佐和子さんを、父はすごいサービス精神で喜ばせようとしていました。

 王貞治さんは、父が「彼のホームランを見た時に『僕には絶対に(本塁打で勝負するのは)無理だ』と思った」と話すほど、とてもリスペクト(尊敬)している方。王さんの偉大さを語りながら、「でもね、怒ると怖いんだよ。目があんなに大きいしね」って言って、目を大きく広げてみせて…。「ちょっと、王さんの顔まねしないでよ」って、テレビに突っ込みました。大笑いの阿川さんに「ちょっとやり過ぎちゃったかな、へへへ」みたいな感じの“ブリッ子スマイル”を見せて。80歳になっても、きれいな女性にはサービスしたり、自分がかわいく見られたいのかしら? 娘には絶対見せない表情。すごくかわいいと思っちゃった。

 家では野球の話は出ません。「パパは頑張った」とか「こういうことをしたんだ」とか、自分から話してくれたことは一切、なかった。私がテレビ朝日に入社して、スポーツ記者になってから初めて、野球選手としての記録を見て、すごい選手だったんだ、と感じました。ただ、周囲から自分がやってきたことをどんなにほめられようが、「栄光だ」と言われようが、「過去の栄光」という言葉は父には一切ない。過去は振り返らないんです。

 現在の父の夢、いや目標は「走りたい」。ただ一つ、「走ること」だけなんです。だから、そのためにリハビリ(私は筋力トレーニングと思っていますが)をして、ちゃんと健康診断や人間ドックにも行って、体調管理はバッチリ。過去は振り返らず、本当に前だけ見て80年…みたいな感じがします。

 父と一緒にやってみたいこと? もし、父の夢が達成して走れるようになったら、一緒に走りたい。

 私が器械体操をやっていた10歳の時、父と一緒に多摩川へ走りに行き、「競走しよう」ということになったんです。私は当時、ずっとリレーの選手。でも、父は子供相手にも全然、手を抜かない。スタートダッシュを決めると「三奈ちゃん、遅いよ」って、ヒューって行って。「パパ、勝ったよ」って。100%本気で「三奈ちゃん、遅いよ、遅い」と、アッという間に行っちゃった。

 父は覚えていないでしょうけど、私は一生忘れない。何で、小学生相手に本気出して負かすんだ? 親子で出かけることもあまりなくて、2人で出かけた唯一の記憶。すごく楽しくて、面白かった。だから、父の夢である「走ること」がかなったら、多摩川でリベンジを果たしたいんです。

 2004年3月4日。(脳梗塞で)倒れたその日、病院の先生に「最悪は一生寝たきり」と言われたんです。もう信じられなくて。「寝たきり」って。あんなに元気な父が寝たきりとか、動かないとか、全く想像つかない。父の人生には(「寝たきり」という言葉は)ないだろうな、と思っていたから。いつも元気だし、「絶対、子供より長生きするよね」と母(亜希子さん)と話していました。「軽く100歳は超えるよね」なんて。健康オタクだったし。

 でも、父と無縁だった言葉を、お医者様から言われました。絶望というか、私自身、初めて人に対して「怖い」という感情を持ったんです。ショックが大きすぎると、悲しいを超えちゃうんです。大切な人の死は、悲しいのではなくて、怖いんだと人生で初めて感じました。こんな怖いことってこの世に起きるんだ、って。病院に駆けつけても意識はなかったし、ベッドの父はチューブだらけで本当に寝たきりで。「パパ、パパ、三奈よ」って言っても、目も開けてくれなかった。

 国民栄誉賞を松井さんと一緒にいただいた2013年5月5日。東京ドームでの松井さんとの始球式で、父は打席に立ってバットを振りました。この間まで杖(つえ)ついていたのに、ウソでしょ?って。バットがボールに届かず、真剣に悔しがる父を見たら、(倒れたことなど)信じられなかった。これは奇跡を見せてもらっているのかな、って思いました。

 父は「長嶋茂雄」として外に出たいから、家を一歩出たら、そこは家族を必要としない領域。だから、私もいつも一緒にはいません。リハビリを見にも行かない。「頑張れ」と見ていることを父も望んではいない。でも、私は見えないところで「愛のムチ」を振るっています。

 名誉都民をいただいた時(14年10月1日)などは、スマートフォンで動画を撮ってあいさつの特訓です。「スピードが速い」「今の聞き取りづらいから、もう一回」。ゆっくり話しているつもりでも、周りの人には速く感じる。「こんなスピードでおかしいなと思うくらいでちょうどいいから」という感じ。周りの人は「言っていることが分かりません」とは言えない。「こういうことですよね」と予想して返してくださると会話が成立しちゃう。そうすると父も楽をしてしまう。それは良くないですから。でも、あんまり言うとスネちゃうから、8割はほめています。「いい話していたよ」とか盛り上げながら。父に煙たがられてもいいんです。家族とはそういう役割かな、と。父が外に出る時には「格好いい長嶋茂雄」でいてほしい。

 まだまだ、この先もいろいろな“発見”がありそう。倒れる前は軽く超えると話していたように、100歳までも、ずっと元気でいてください。(後編に続く)

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