【有馬記念】「キタサンブラック 王者のままで~名馬への歩み~」<6>極悪馬場も出遅れも、武豊との絆で乗り越えた17年天皇賞・秋

スポーツ報知
キタサンブラックは出遅れ、不良馬場をものともせず、最後は先頭でゴールを駆け抜けた(右はサトノクラウン)

◆第62回有馬記念・G1(12月24日・芝2500メートル、中山競馬場)

 伝説のレースと語り継がれるはずだ。17年の天皇賞・秋は、人馬の究極のパフォーマンスとなった。

 「もう、びっくり。追い込まないと仕方ないなと」。調教師の清水久詞は覚悟を決めた。キタサンブラックがゲートを突進して、前扉に接触。18戦目で初めて出遅れた。48年ぶりの『雨・不良』での実施。上がり最速が38秒5という特殊な馬場で、各馬は荒れきった内を避けて運んだ。

 騎手の武豊は違った。「普通の馬とは違う。体の強さがあるから、こなせると思った」。ぽっかり空いたインを進出し、気づけば4コーナーで2番手。直線で押し切った。絶対の信頼に、馬がこたえた。

 一方、清水久は主戦を絶賛した。「経験値が違う。対応力がすごい。ユタカさんしか、できないでしょう。『馬のおかげ』と言ってもらったけど、力を最大限に引き出してくれた鞍上の腕。やっぱり、キタサンにぴったり合っているなと感じました」

 前走の宝塚記念で9着。日本ダービーの14着以来2度目の着外で、古馬になって初めての苦杯を喫した。調教役の騎手・黒岩悠と、担当厩務員の辻田義幸はともに「(走るのを)やめることを覚えていないか」と精神面を心配した。辻田が苦笑いで愛馬の心境を想像する。

 「もともとゲートで、ソワソワするところはあったんです。走りたくて仕方がない感じ。『いつ開くの?』って。それが、一番強く出たのかもしれませんね」。やめるどころか、4か月待ってようやく迎えた雪辱の機会への高揚感が『あの形』で出たのかもしれない。

 戦前には年内引退を発表。ラスト3戦の初戦にあたり、清水久は初めて口にした。「鍛える期間は終わりました」。追い求め続けた、完成形にたどり着いた。休み明け、極悪馬場の厳しい条件でも負けるわけにはいかなかった。続くジャパンCで3着に敗れたが、史上最多タイのJRA・G1・7勝に王手をかけて、ラストランを迎える。(敬称略)

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