2月末に定年迎える小島太調教師 3人の息子が語る知られざる父親の素顔(前編)

スポーツ報知
息子たちの前で優しい父の顔になった小島太調教師(右から2人目。左から勝三調教助手、太一騎手、1人おいて良太調教助手)

 2月末で定年を迎える小島太調教師(70)=美浦=。騎手を引退したあと1997年に厩舎を開業し、2001年の菊花賞(マンハッタンカフェ)などG1レース5勝を含む重賞24勝の活躍を支えたのは、3人の息子たちだ。良太調教助手(46)、勝三調教助手(42)、そして現役ジョッキーの太一騎手(32)。厩舎の解散を前に3人が集まり、父親の知られざる素顔を語った。(取材、構成・石野 静香)

 ―解散まであと1週間

 勝三「いまいち最後感がないよね」

 太一「ないね。不思議だよね」

 勝三「1週間の繰り返しだからね。火曜日から仕事して、木曜日に出馬投票して、土日が競馬で…っていうのを毎週繰り返してるから、最後感ないよね」

 良太「そうそう。ずっと続いてきたことだからね。最後の競馬の週(24、25日)、小倉から帰ったらツーリングでも行こうかな、なんて思ってたら、『いやいや、オヤジの最後だ』って気付いて(笑い)。そのくらいピンと来ない。オヤジの仕事ぶりも全然変わらないよね」

 勝三「でも、競馬場に行く時に、時々『福島もこれで最後だな。もう来ることねえのか』なんて…。そういうのは最近多いね」

 良太「いま厩舎にいるスタッフで、開業からいるのは俺だけ。丸々20年。長くいたぶん、さみしいなとは思うよね。勝三はいつ厩舎に来たっけ? マンハッタン(カフェ)が引退する頃だっけ」

 勝三「いや、有馬記念を勝って年が明けてからだから、2002年の1月から」

 良太「今年で16年か。太一はデビューしたのいつだっけ?」

 太一「2005年」

 良太「太一で13年か」

 太一「競馬学校でマンハッタン見てたな」

 良太「まあ、珍しいよね。兄弟3人とも同じ厩舎で一緒に働いてるってのは」

 勝三「ほんとだね。兄弟3人。すごいオヤジやな」

 良太「ほんとの家族経営(笑い)」

 ―この世界に入ったきっかけ

 勝三「競馬学校の騎手課程を落ちた時点で、競馬の世界はもういいかなって思った。騎手じゃなくちゃ意味がないくらいに思ってたから。でも、兄貴がやってるのを見て、スタッフもありなのかなって」

 良太「勝三は、学生の時から他の世界に行きそうな感じだったよね。俺、オヤジに言われたもん。『勝三をなんとか説得して、こっちの世界に入れろ』って」

 勝三「タイミングもあったかな。(良太と)4つ年が離れてて、その頃の4つって全然違うじゃん? 先に社会人になった兄貴を見てたし、(サクラ)ローレルの活躍もあったし」

 良太「俺は体がでかかったから、ジョッキーって選択肢は最初からなかったな。でも、小学校の時から競馬は大好きだった」

 太一「俺は騎手になって、思い通りにいかなかったし、迷惑もかけた。俺は先生(父親)のいいところばかり見てたから。でも、最後まで所属でいさせてくれましたからね」

 良太「でも良かったよ。ひとり、オヤジと同じ職業(騎手)の人間がいて。なりたくてもなれない仕事。それをかなえたのは、俺でも勝三でもなく太一なんだから」

 太一「少しは同じ風景を見られたかな」

 ―フトシ伝説!?

 良太「毎日が伝説(笑い)。いろんなことが常識的じゃないから、常識的じゃないことが、俺らのなかでは常識になってる。マスコミの人も分かってるんだろうけど」

 勝三「驚いたことばっかりだよね」

 良太「どれで驚いたのか覚えてない。驚かなくなっちゃったからね。ハハハ」

 ―思い出

 太一「一緒に仕事してたんだよね?」

 良太「そうそう。俺、馬が好きで競馬を好きになったわけじゃない。オヤジがかっこいいから競馬が好きだった。小学生の時、オヤジの成績をノートに書いて記録するのが好きだった。で、よその厩舎で厩務員として働き始めた時、オヤジはまだ現役の騎手。当時の先生が気を使ってくれて、俺の担当馬にオヤジを何回も乗せてくれた。厩務員になって初めてのレースには、オヤジが乗る予定だったの。あろうことか、前の週に騎乗停止になって」

 一同「ハハハ」

 勝三「あー、あったね」

 良太「せっかくお膳立てできてたのに(笑い)。結局、的場さんが乗ったんだけどね。その週は騎乗がないんだけど、心配で競馬場に来てたみたいで、装鞍所で柱の陰からこっそり見てた。調教師になってからは、調教で一緒に乗ってたよ」

 太一「なんかないの?(その時の)面白い話」

 良太「オヤジが最後に乗った時は、俺との併せ馬だった」

 勝三「ああ、あの話いいね」

 良太「なんせ、ジョッキーの時から人一倍かっこつけなくちゃ気が済まない人でしょ? それがね、俺との併せ馬で、オヤジの馬がすごい引っかかったの。ワーって(手綱を)引っ張って、道中つらくて、隣の俺に『飛び降りるぞ、飛び降りるぞ』って。ゴール板切ってから『お前ばっかり、かっこつけて乗りやがって』って。それで調教乗るのやめた(笑い)」

 一同「ハハハ」

 良太「開業して2年目の時かな。その後は乗っても運動だけ」

 太一「でも一度、『また騎手やろう』とか言ってなかった?」

 良太「ダク踏んでやめたんだよ、怖いって言って」

 勝三「調教は乗らなくなってからも、期待してる馬は常歩(なみあし)で乗ってたじゃん。『背中どうなんだ』って。速足しようと思って鐙(あぶみ)上げたんだよね。そしたら、やっぱ違うと思ったんじゃない? 騎手だっただけに、頭の中のイメージとズレが起きたんだろうね」

 ◆小島 良太(こじま・りょうた)1971年5月18日生まれ。46歳。小島太厩舎で調教助手。3月からは新規開業の和田勇介厩舎に転厩する。

 ◆小島 勝三(こじま・かつみ)1975年11月28日生まれ。42歳。小島太厩舎で調教助手。3月から同じく和田勇介厩舎に転厩。

 ◆小島 太一(こじま・たいち)1985年12月30日生まれ。32歳。2005年3月に騎手デビューし、JRA通算44勝。小島太厩舎所属。

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