2月末に定年迎える小島太調教師 3人の息子が語る知られざる父親の素顔(後編)

スポーツ報知
対談する(左から)小島良太調教助手、太一騎手、勝三調教助手(カメラ・橋口 真)

 2月末で定年を迎える小島太調教師(70)=美浦=。騎手を引退したあと1997年に厩舎を開業し、2001年の菊花賞(マンハッタンカフェ)などG1レース5勝を含む重賞24勝の活躍を支えたのは、3人の息子たちだ。良太調教助手(46)、勝三調教助手(42)、そして現役ジョッキーの太一騎手(32)。厩舎の解散を前に3人が集まり、父親の知られざる素顔を語った。(取材、構成・石野 静香)

 ―世界に人脈

 勝三「香港の調教師アンソニー・クルーズがジョッキー時代に、フランスで一緒に乗ってたんだって。フレディ・ヘッド(フランスの調教師)もそうだよね? 英語はもちろん、フランス語なんて絶対話せないのに、日本に来た時、平気で日本語で話しかけてた。『おお、お前元気か』くらいに(笑い)。平気でハグして。あれ、すごいと思う」

 良太「外国人に対して動じないからね」

 勝三「相手も日本語で言われてるから分からないんだろうけど、うなずいてるんだよね。なぜかコミュニケーションが取れてる。騎手の時に積極的に外国へ行ってたから、たくさん知り合いがいるんだよね」

 太一「人脈が広いよね」

 勝三「日本に来た時とか競馬場で会うじゃん。余裕で日本語で近付いていってさ。向こうもすごくうれしそうにするんだよね。覚えてるみたいでさ」

 太一「なんか覚えられてるよね」

 勝三「年寄り同士のハグすごいよ(笑い)。ケント(デザーモ)も『コジマ元気か』って。(小島太厩舎の馬で)競馬はほとんど乗ってないけど、朝、ここ(厩舎)でビール飲んでた」

 良太「友達」

 太一「追い切りが終わってね」

 良太「来日騎手も、うちの所属では呼んでないけど、結局面倒見てるよね」

 勝三「そうそう」

 良太「ムルタとかもそうだったじゃん。ミルコ(デムーロ)だって、最初の年(2002年)にタイガーカフェで皐月賞2着。みんなそうだよ」

 勝三「それはやっぱり、自分が知らない所に行ってそうしてもらっていたから。だから親切にしてやれって、俺らに言うじゃない」

 ―華がある

 良太「騎手の時も、それこそ岡部(幸雄)さんや柴田(政人)さんの方が乗り鞍も勝ち数もすごかったけど、小島太って、ちょっと違った。華があるというか、スターというか。調教師になってからも、それこそもっと成績のいい厩舎はたくさんあるけれど、『フトシ』だけで通じるのってオヤジくらい。それこそ、勝ってウィナーズサークルで『サインください』ってあれだけ言われる調教師もいないわけじゃん。記録で言ったら、他の騎手や厩舎にかなわないんだけど。だから長嶋茂雄なんだよね。スターなんだ」

 勝三「応援してくれる人とアンチが、実は同じ人なんじゃない」

 良太「オヤジが騎手を辞める最後のレース。お客さんとしてスタンドに見に行ったんだよ。そこで、むちゃくちゃヤジってる人がいたの。もう、ここぞとばかりに言ってる。で、レース終わって地下馬道に行った時に、泣いてるんだよ、その人。ファンとアンチが一緒だっていうのは、そこなんだよね」

 勝三「なるほど」

 良太「新聞記者の人も一緒だと思うんだけど、ついつい買っちゃうんだよね。『具合いいぞ』って言っただけで『ラッパ』になっちゃうから」

 一同「ハハハ」

 良太「だから、お客さんもそうだと思うよ。ガチの馬券じゃなくて、がんばれ馬券を買ってる人が多いと思う」

 ―仕事人間

 良太「馬の放牧や入厩といった出し入れや、競馬のどこを使うとか考えるのが好きな人。毎週、週頭の決まり文句は『寝ねぇで考えた』だからな。『寝ねぇで考えた』って言って、カーッと寝てるけどね(笑い)」

 太一「ほんと夜中に突然起きて、ブツブツ言いながらやってる」

 良太「夜中の12時、1時、2時とか、ああいう時間に起きて、いきなり馬の入れ替えとか始めるらしくて。一緒に住んでる人は大変だよな」

 勝三「大変だろうね」

 良太「ほんと仕事好きな人だよね。月曜日は必ず牧場に行くじゃん。必ず朝の6時か7時に厩舎へ来て、全部の牧場を回ってくるから」

 太一「休みないよね」

 ―これから

 良太「引退後が一番心配」

 勝三「何か趣味があればいいんだけどね」

 太一「趣味が馬だからね」

 勝三「ほんとにないよね」

 良太「あとは、相撲を見るくらいかな。NHKで大相撲の解説をした時に俺も一緒に行ったけど、普通に解説してて、すごいなと思った(笑い)。普通は、ちょっと好きでも、たとえば行く前に何日かかけて勉強してから行くじゃん? ちゃんと全て把握してたからね」

 太一「相撲は好きだよね」

 良太「勝負事が好きだよね。しかも、一瞬でつく勝負が好き。競馬もそうだけど。ただ、スポーツ観戦が好きって感じではないね。勝三はオヤジの血を引いて、相撲が大好きだから」

 勝三「そうだね」

 良太「旅行は好きじゃないし、観光ってタイプではないもんな。仕事であっちこっち行くのは全然苦にしない人なんだけど。仕事だったら、日帰りで北海道に行くもんね」

 太一「すごいよほんと。飛行機だって疲れるのにね。北海道も全部自分で車を運転するし」

 良太「『ああ疲れた~』とか言うと、言われたもん。『移動を苦にするやつは大成しない』って」

 ―メッセージ

 良太「この年まで、よく頑張った。でも、俺としては、もっと働いてほしい」

 勝三&太一「うんうん」

 良太「システム上、無理なことなんだけど。あと5年はやれそうだよね」

 太一「全然できそう」

 良太「おそらく本人には、やり尽くしたとか燃え尽きた感は全くないと思う。定年っていうのは、オヤジにとってかわいそうな制度だと思うよね。まあ、今後も何らかの形で競馬には携わるんだろう。職種が変わるだけで、まだ『お疲れさま』っていうふうに声をかけるつもりはない。生涯現役じゃないけどさ。今の仕事は一区切りで、まだまだ頑張ってほしい」

 勝三「最後まで『もういいや』ってならなかった。勝った負けたで、最後まで熱くなれたのはすごいなと思う。定年する年に金杯使う調教師ってすごいよね」

 良太「いないね。ちゃんと最後もG2で締める(中山記念にディサイファが出走予定)」

 勝三「店じまいのギリギリまで戦った。それって調教師に限らず、他の職業でも、定年間際の人でそこまでできるのはすごいと思う。最後まで喜んだり真剣に悔しがったりしていた。だいたい普通は片付けに入るよ」

 太一「気持ち的にもね」

 勝三「そうそう」

 良太「最終週も燃えてるからな。大攻勢をかければ、『フトシ祭り』って言われるだろうね(笑い)」

 ◆小島 良太(こじま・りょうた)1971年5月18日生まれ。46歳。小島太厩舎で調教助手。3月からは新規開業の和田勇介厩舎に転厩する。

 ◆小島 勝三(こじま・かつみ)1975年11月28日生まれ。42歳。小島太厩舎で調教助手。3月から同じく和田勇介厩舎に転厩。

 ◆小島 太一(こじま・たいち)1985年12月30日生まれ。32歳。2005年3月に騎手デビューし、JRA通算44勝。小島太厩舎所属。

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