【北海道出張記者のなまらいい話】函館出身・丹内騎手、同級生のプロレスラーと地元盛り上げる!

スポーツ報知
ラスト1週の函館競馬に気合を込める丹内騎手(左)。同級生でプロレスラーのカツオさんと互いの健闘を誓った

 7月某日。丹内が待ち合わせに指定したのは、函館市本町・青空ビルに店を構えるモツ鍋「かつお」。カウンター数席とテーブルが1卓。ローカルのスナックを思わせるこぢんまりした店内で、体格のいい金髪男が濃厚な味付けの絶品料理を提供する。「店主は僕の同級生ですよ。小、中学校の。現役プロレスラーです」。函館滞在中は何度も足を運んでいるなじみの空間。「ひとりでも来ますね。餃子がマジでうまい」という常連だ。

 記者は競馬業界に足を踏み入れて、10年以上がたつ。騎手と“初めてのサシ飲み”が丹内だった。こうしてのんびり話すのは久々だろうか。「まだボルト、入っているんです。右肩に」。06年夏に落馬し、10か月の休養。2人で飲んだのは復帰してから数週間後のことである。

 函館出身のJRA現役騎手は丹内しかいない。かつては石山繁、塚田祥雄の3人だったが、2人は07年の落馬で脳挫傷と診断。後遺症が残った影響から、それぞれ09、10年に引退を余儀なくされている。

 同郷の仲間を思うと胸が痛む。「僕が落馬してから、立て続けに石山さんと祥雄が落ちた。悪い流れをつくっちゃったのかな、と思うこともあるんです」。けが、時には死と隣り合わせの世界。私は現場記者のキャリアを積み、ジョッキーの話に耳を傾け…。いつしか彼らの世界を無理には理解しようとしなくなった。物事を伝えるマスコミとしてそれが正しいのかは分からないが、“理解した気”になるのは失礼なことではないか。きっとどこかでそう感じた瞬間があったのだろう。

 「僕もね、4年前に膝の靱帯をやっちゃって…。所属先の契約がなくなりました。それで3年半前から店を。けがをした時の気持ちはよく分かります」と口を開いたのは、店主のカツオ。現在は『道南リング』でプロレスを広めながら、居酒屋経営をしているという。同級生の彼らは先日、トークイベントを行った。地元を盛り上げる一環だ。危険を伴う仕事、函館愛。見てきた景色が似ているからこそ、丹内は居心地の良さを感じているのかもしれない。

 一般人に騎手の気持ちを理解することは難しくとも、エールを送ることならできる。「安い言葉はいらないッスよ」。屈託のない笑みで本人にはかわされそうだが、それでも言わせてほしい。愛する函館競馬も残り1週。丹内、頑張れよ。(豊島 俊介)

                       =随時掲載=

 ◆丹内 祐次(たんない・ゆうじ)1985年、北海道函館市生まれ。32歳。04年3月に美浦・清水美波厩舎からデビュー。15年マーチS(マイネルクロップ)でJRA重賞初制覇。16年には地元の函館記念(マイネルミラノ)を制し、ウィニングランでファンを沸かせた。JRA通算256勝(うち重賞2勝)。趣味はボートレース。165センチ、47キロ。血液型O。

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