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V逸の鹿島から消えた勝利への駆け引き

2017年12月7日16時0分  スポーツ報知
  • 磐田と引き分けに終わり優勝ならず、ベンチでがっくりの小笠原(左)

 川崎が大逆転で初タイトルを獲得し、今季のJリーグは劇的な幕切れを迎えた。引き立て役となってしまった鹿島は、残り2試合で1勝すれば優勝を決められたが、2引き分け。19冠を獲得してきた王者の歴史は繰り返されず、王座を譲った。V逸が決まると、間を置かずに鹿島OBを含む多くの関係者から「鹿島らしくない」などの電話やメッセージが届いた。「―らしくない」の後に続く言葉も、ほとんど同じ。「なんで小笠原を使わなかったの?」だった。

 最終節、鹿島はアウェーの磐田に乗り込んだ。勝てば優勝が決まる一戦で、選手は勇敢に立ち向かった。前半は攻撃を受ける場面が多かった。0―0で折り返し、後半に強さを発揮する鹿島のペースにも見えた。ただ、磐田MF中村俊輔の動きが気になった。CKに向かう場面で、ゆっくり走っていたからだ。主審に促されるまで味方選手と何やら言葉を交わし、CKスポットに向かう時もあった。

 鹿島担当の私がイライラしたのだから、限られた時間の中でゴールを求めていた選手は、なおさらだろう。中村の“スロープレー”が試合に影響を及ぼしたかどうかは証明できないが、鹿島は決定機を生かせなかった。終盤は焦りに拍車がかかり、攻撃は中へ中へと集まった。あえぐイレブンを見て、小笠原が以前「勝つためには色々な駆け引きがあるし、それが必要だ」と話していたことを思い出した。

 例えば、開始直後に相手のキーマンを潰す。「今日はやらせないよ」というメッセージを、相手だけでなく味方にも知らせるのだ。そして、ペナルティーエリアの左右スペースに、20~30メートルの縦パスをポーンと送り続ける。成功率は30%くらいだろうか。DFが最も嫌がると言われるエリア。そのパスで得点を狙うというより、むしろ「相手(ライン)を下げる」のが目的だ。これらの布石を打ち、駆け引きを続けた先に、ゴールや勝利があるのだという。

 鹿島が得意だったはずの試合マネジメントは、むしろ磐田の中村の動きの方に「巧みだ」と感じる結果になった。小笠原は8月26日のC大阪戦に先発後、最終戦でも出番はなく、10試合連続不出場でシーズンを終えた。磐田戦後、小笠原はピッチから下がるとロッカールームを背にし、チームメートには見えないように涙を落とした。試合に出なかった試合で、涙の跡を見たのは、担当13年で初めてのことだった。

 大岩監督は「優勝」の2文字をのどの奥にしまい込み、王手を掛けた後も「いつも通り勝つための準備」を進め、奇をてらわずに「いつも通り」の采配に徹し続けた。シーズン途中で就任した5月31日以降、多くの勝ち点を稼いだ。指揮官の「普段通り」は1つの解答だと思う一方で、土壇場で「勝負に行く」一手も使い分けられれば、さらに勝ち点を稼げるのでは?とも感じる。

 磐田戦の2日前、小笠原は、はっきり「試合に出たいよ」と口にした。満員の観衆、ミスを許されないヒリヒリした天王山。Jリーガー最多タイの16冠を獲得してきた38歳は「大好物だもん」と意気込んでいた。ただ「勝負の世界に『たら、れば』はない。自分が出ても(33節の柏戦は)負けたかもしれない。だから『たら、れば』は言いたくない。自分が出られないことだけが事実、現実。出られるように頑張るしかない」とも言った。

 19冠を重ねてきたクラブは今後、来季の奪還へ動き始める。審判の判定による“幻のゴール”は無念だったが、歴史は変えられない。小笠原も本山雅志(北九州)も悔しい思いを糧に、その後の「勝つ方法」を見つけていった。鹿島は、監督も選手も「勝つためにやること」を考える時間は今季以上に増え、試合や準備へのアプローチも変わるだろう。

 鹿島から消えた、1本のパスと体当たり。これらの駆け引きは、勝利よりも悔しさをきっかけに、身に着いていくものだ。味わった悔しさが大きいほど「鹿島の選手」に近づいていくチャンスでもある。(記者コラム・内田 知宏)

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