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カメラマンが見たサッカー・北朝鮮女子選手の涙とその理由

2017年12月19日16時0分  スポーツ報知
  • 手に取った金メダルを見つめるサッカー北朝鮮女子代表の選手
  • 金メダルに笑顔のサッカー北朝鮮女子代表チーム

 手に取った金メダルに涙がこぼれそうなのが見え、思わずレンズを向けた。撮影したいスポーツの光景があった。

 日本で開催されたEAFF E-1 サッカー選手権2017決勝大会女子。11年W杯優勝も果たしたなでしこジャパンの優勝を阻み、この大会で3連覇を為し遂げたのは、核開発で国際的な非難の声を浴びる北朝鮮の代表選手たちだった。

 私が日本メディアのカメラマンとして最優先にしなければならないことは、なでしこジャパンの動向、情勢を伝えられるような写真を撮ることだ。となれば表彰式では歓喜に沸く優勝国チーム越しに日本選手の様子を撮影できるポジションに陣取るのがセオリーだ。しかし、そこからファイダーを覗き込むと最近あまり見ないくらいの喜びに沸く北朝鮮チームに目がいってしまった。16年はU17とU20でW杯を1年で2度も制し、今大会は3連覇といえども国外での試合経験が少ないからだろうか。例えるならば高校野球で県大会を制し、甲子園初出場が決まった高校球児のような、なんだか見ていて懐かしい気持ちになるような慣れていない感のある歓喜だった。輪の中心から少し外れ、金メダルを見つめて目頭を熱くする選手に思わずシャッターを切った。

「負ければ炭鉱送り」「国家喧伝の歯車」「感情のないマシーン」北朝鮮の悪い印象も相まって、アスリートのイメージも決して芳しいものではない。代表選手の所属チームを見ると「4.25体育団」「機関車体育団」のように共産主義色の強い謎めいた名前が並んでいた。そのチーム名に見覚えがあった。

 学生時代、好奇心で北朝鮮の学生スポーツについてレポートをまとめたことがある。大学所蔵の古い文献から知りえた情報では北朝鮮には各地に体育団が結成され、人民は定期的に行われる地方大会に出場する。好成績を収めると「4.25体育団」のような強豪体育団へと移籍していき、若年層はスポーツエリートが集まる平壌(朝鮮)体育大学に集約されていくという。国家の士気高揚のためとはいえ、スポーツ選手の選出方法ではある程度平等なシステムが採用されているのである。国際社会から孤立し、希望という文字とは対極にあるような国家でもスポーツは個人の身を立て、希望として機能しているのではないか―。当時そう感じたのを強く覚えている。

 本当の意味で国家が作成した無感情な運動マシーンなどいないはずだと信じたい。スポーツをする以上、そこに個人の感情は発露する。見る側の人間がそこに共感したり、何か感情を見出したりすることはスポーツの大切な価値の一つだ。

 北朝鮮の選手も金メダルを見て涙を流す。その感情の源は選手が海外メディアに語ることがないため分からないが、この日のカメラマンの前には、満面の笑みとポーズで応じてくれる北朝鮮女子選手たちがいた。彼女たちが表彰式で見せた涙の理由を素直に語れる日が訪れるのを待ちたい。(記者コラム 写真部・酒井 悠一)

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