【二宮寿朗の週刊文蹴】井手口の「大才」を開花させる「縁」

スポーツ報知

 小才は縁に会って縁に気づかず。中才は縁に気づいて縁を生かさず。大才は袖すり合った縁をも生かす―。

 これは江戸時代に徳川将軍家の剣術指南役を務めた柳生家の家訓として知られている。小さな縁をも生かす人が「大才」、つまり優れた才能を持つ人だと説いている。

 井手口陽介は今冬、イングランド・チャンピオンシップ(2部)のリーズに完全移籍し、そのままスペイン2部クルトゥラル・レオネサに期限付き移籍した。彼は図らずも良い出会いを引き寄せた。チームを率いる青年指揮官、ルベン監督の存在である。彼は昨季、就任わずか1年でチームを2部に引き上げている。

 筆者がその名を初めて知ったのは2年半前。当時、スペインに赴いて飛び込みでコーチ修業をした安永聡太郎(前J3相模原監督)から「まだ30歳だけどすごい監督がいる」と教えてもらった。3部ギフェロを率いていたルベンの的確な采配に衝撃を受けたという。

 「グアルディオラ(現マンチェスターC監督)の信奉者で、戦術を細かくチームに落としこめる人。ある練習試合で彼は状況を考えて布陣を変えずに選手の立ち位置を変えて数的優位をつくり、攻略したことがあった。近い将来、エメリ(現パリSG監督)のようにのし上がってくる監督だと思う」。業界きってのスペインサッカー通である安永が2年半前に予言したとおり、ルベンの評価は次第に高まってきている。

 井手口の移籍に際し、あらためて安永に聞いた。「ルベンのもとで学んで戦術理解度を高められたら井手口選手自身、すごく成長できるはず。戦術の中で自分をどう輝かせることができるか。その術を持つことが、スペインで活躍するための大事な要素。いいチームに行ったのではないか」。新進気鋭の戦術家との運命的な出会い。この「縁」を生かしてこそ、井手口の「大才」は開花する。

(スポーツライター)

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