【神撃 再び】〈中〉山中慎介、戦う理由が増えた 子供をまたリングに上げたい

スポーツ報知
リング上で長男・豪祐くんと長女・梨理乃ちゃんを抱いてインタビューに答える山中

◆報知新聞社後援プロボクシング・ダブル世界戦 ▼WBC世界バンタム級タイトルマッチ 王者・ルイス・ネリ―前王者、同級1位・山中慎介(3月1日、東京・両国国技館)

 昨夏、挑戦者ルイス・ネリ(23)=メキシコ=に予期せぬ敗戦を喫した山中慎介(35)=帝拳=は、現役続行の意思を固めるまで時間を要した。戦う決断を下した背景には、沙也乃夫人(32)、長男・豪祐君(5)、長女・梨理乃(りりの)ちゃん(3)と過ごしたことによる心の変化があった。

 昨年8月15日、山中は王座から陥落した。会場の島津アリーナ京都で応援した豪祐君は、ママに聞いた。「今日はリングに上がらないの?」。沙也乃さんの目に涙が浮かんだ。生後6か月のV3戦から、リングに上げるのが恒例だった。山中は「あの日も上がるつもりでいたと思う」と敗北を痛感させられた。

 その夜、朝方まで妻と会話した。「今後やるにしても、やめるにしても任せる。好きなようにして。後悔のないようにしてね」。数日後、豪祐君が「次やったら勝てると思う」と突然言い出した。「まだ僕は先のことも決めてないのに、ビックリした。妻もいつも通りに接してくれた。自分が一番、引きずっていた」。何よりも温かい時間が、少しずつ前を向かせてくれた。

 勝てば祝勝会やイベント出演が続くが、前回は予定が空いた。「負けたことで家族と過ごす時間が増えた。家族といて、ゆっくり自分の今後について考えられたのは大きかった。家族の大切さを感じて、そこで『もう一度、ネリと』という気持ちになった。あれじゃ終われない」。試合から約3週間後、妻に現役続行の意思を伝えると「でしょうね」と即答された。「あのままやめられないでしょ、みたいな感じだった」。短い言葉だったが、気持ちを分かってくれていた。

 テレビ番組の収録中に負けた試合の映像を見た。泣きながら花道を去る自分の姿に、長男がうつむいた。「あの映像で初めてそのシーンを見た。パパが負けたことが分かっている」。最近は神社にお参りに行くと、豪祐君が「次はネリに絶対勝てますように」と手を合わせる。「子供たちもネリの名前は覚えている。子供心に印象深いんでしょうね」。ミットを打つ拳に熱がこもった。

 年明けに初めて家族に練習を見せると、はしゃぎ盛りの息子が黙り込んだ。「一生懸命やる姿って人に伝わるんだな。子供の『勝ってほしい』という気持ちも伝わる」。挑戦者として戦う理由が増えた。(浜田 洋平)

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