•  スポーツ報知のWebサイト限定コラムがスタートしました。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

「拳で世界の扉をこじ開けた男」三浦隆司が残した11度防衛の内山に負けない足跡

2017年8月8日16時0分  スポーツ報知
  • 2011年1月31日に行われたWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦。7回、三浦隆司(右)の顔にジャブをヒットさせる王者・内山高志
  • 三浦隆司

 プロボクシングの元WBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志(37)=ワタナベ=の引退会見前日の7月28日に、元WBC世界スーパーフェザー級チャンピオン・三浦隆司(33)=帝拳=がツイッターで引退を発表した。同時期に、同階級の、ハードパンチャーの日本人王者2人が君臨したのは、日本ボクシング界の歴史をひも解いても稀なことだ。11度の王座連続防衛を記録した内山と甲乙つけがたい足跡を、三浦は残したと思う。

 王座返り咲きを目指し、同15日に米カリフォルニア州イングルウッドで、現WBC同級王者ベルチェルト(メキシコ)に挑戦したが、代名詞「ボンバー・レフト」の強打を封じられ、判定負け。試合から2週間足らずで重たい決断を下した。「想像もしていなかったアメリカのリングに立てて最高のボクシング人生でした」という三浦のつぶやきに、思わずうなづいた。

 三浦が日本スーパーフェザー級王者だった2010年から昨年まで取材してきた。「拳で世界の扉をこじ開ける」という表現を地で行く拳闘人生だった。

 2011年1月31日の世界初挑戦の相手は、当時WBA王者の内山だった。3ラウンドに自慢の左ストレートでダウンを奪ったのが、唯一の見せ場。テクニックで勝る王者に左手一本であしらわれ、8ラウンド終了後、右まぶたを腫らせ、視界を失ったとしてTKO負けを喫した。

 想像以上に高かった世界の壁。後日、「立ち上がった内山さんの目は死んでなかったし、なにより精神力が強かった」と振り返った。この一戦で世界を取るために、三浦は何が足りないかを嗅ぎ取ったようだ。

 秋田県三種町の生まれ。「口数は少なく、我慢強い」はステレオタイプな北国育ちの人物像だろうが、三浦はそんな男だ。実直なのだ。

 内山戦から半年後、横浜光ジムから帝拳ジムに移籍した。当時の帝拳ジムの看板選手は、2011年10月に米ラスベガスで7度目の防衛戦を控えていたWBC世界スーパーバンタム級王者・西岡利晃。西岡の練習量は時間、密度ともに他の選手たちを圧倒していた。だが、三浦は西岡よりも長い、4時間以上のジムワークを日課とし、限界に挑むかのように汗を流していた。「チャンピオンじゃない自分は練習するしかないですから…」とボソッと語った表情には既に凄みがあった。

 少し話はそれるが、試合の約2か月前から夕食に高タンパクの牛ステーキを必ず添える。「試合後は牛肉を見たくない」と勝つために嫌々でも肉を頬張る。ほかにも、スタッフからもらった、疲労回復に効果があるとされるラバー製ブレスレットを、試合時を除き、1年以上も身に着けていたこともある。自分がいい、と思ったことはとことん突き詰める性格でもある。

 初挑戦から2年以上、チャンスを待ち、迎えた2013年4月の世界再挑戦。王者ディアス(メキシコ)を4度倒し、KO勝利で念願のWBC王座をもぎ取った。同年8月の初防衛戦の地は、いきなりメキシコ。初の海外での試合で、時差や暑さ、そして減量に苦しめられながら、世界ランク1位の挑戦者とダウンの応酬の末、判定勝ち。この激闘が世界のファンをうならせ、海外の関係者の関心も引くことになった。

 ついに、2015年11月の5度目の防衛戦で世界のボクシングの中心、ラスベガスのリングに立った。リングサイドで熱戦を待つ私も身震いした。ここは紛れもなく、日本人ボクサー未踏の最高峰のステージだと…。試合は挑戦者バルガス(メキシコ)と倒し倒されの打撃戦を展開。KOで敗れ、王座陥落したが、試合会場のマンダレイ・ベイの目の肥えた観客たちを大いに沸かせた。そして、米国内の複数メディアで、同年の年間最高試合にも選出された。

 9月9日にWBO世界スーパーフライ級王者・井上尚弥(大橋)がロサンゼルス近郊で、初の「米国防衛戦」に臨む。昨今、日本人ボクサーにとって、米国のリングはかなり現実感を持てるステージになりつつある。それは三浦が開拓者の一人として、「日本代表」として、リスクを恐れず、拳で勝負し、時代に変革をもたらしてきたことにほかならない。

 ボクサー人生の集大成で、結果的に引退試合になった7月の世界戦に関し、三浦は「初めての完敗だと思います」と感想を残した。負けを認められるからこそ、前へ進める―。武骨なハードパンチャーの次なる成功を切に願っている。(記者コラム・飯塚康博)

  • 楽天SocialNewsに投稿!
コラム
今日のスポーツ報知(東京版)
報知ブログ(最新更新分)一覧へ