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9月9日に出た桐生祥秀の9秒9台 偶然ではない「これだけの理由」

2017年9月14日16時0分  スポーツ報知
  • 追い風1・8メートルで9秒98を記録し喜ぶ桐生祥秀(C)東洋大学スポーツ新聞編集部・小野由佳莉撮影

 日本初の100メートル9秒台が、ついに出た。しかも9月9日。「9秒9の日」だというのは出来過ぎか、それとも運命か。快挙の裏には、いくつかの要因が隠れている。

 左太ももに張りがあったはずの桐生祥秀(21)=東洋大=が、大学生活ラストの100メートルを迎え「肉離れしてもいい」と完全燃焼したのが、まず大きい。追い風となる1・8メートルの北風が吹き、公認上限2・0メートルに迫る絶好の条件で走れた事実も無視できない。さらに、ある偶然があったのだ。

 日本学生対校選手権は昨年、9月の第1週の週末に埼玉・熊谷で開催された。今年は第2週で福井だった。台北ユニバーシアードが8月下旬にあり、過密日程にならないよう、考慮されたからだ。この1週間が、実は大きい。福井陸協関係者は「この時期(第2週)なら、秋の北風になることが多い。仮に1週間早ければ、夏の南風が吹く可能性が高かった」と明かす。この時期の南風は、福井県営陸上競技場では向かい風になる。関係者は「ユニバで後ろにズレた開催日程を聞いて、いい風が吹くかもしれないと思っていた」という。

 追い風1・8メートルで9秒98。仮に無風や向かい風なら、10秒1~2台だった計算になる。福井の秋風は、快挙の達成に必要不可欠な要素だった。しかも、福井県営陸上競技場は周囲に高いビルなどがなく、天気予報の通りの風向きになりやすい。今思えば、日本陸連の伊東浩司・強化委員長(47)が9秒台が出る前日の8日に「今回は100%ですよ。出ます」と普段以上に強い口調で断言していた。19年間、日本記録を保持し続けたスプリンターの言葉は重い。

 桐生が3・3メートルの追い風参考9秒87を出した15年春から陸上担当になった。あれから約2年半、桐生は50本以上のレースを走っている。デスクに「今回は9秒台が出ますから!」と言って緊張しながら「その時」に備えたことも、調子を見て「今回は難しそうだな」と肩の力を抜いて準備していたことも、どちらもある。今大会は後者だった。土江寛裕コーチ(43)も「記録を出す準備は全くできていない」と話していた。決して100%の状態で走ったわけではない桐生の9秒台は、いつくつかの条件が重なって生まれた。歴史に刻まれるような大記録は、そうやって生まれるものなのだろうか。まだ記者7年目。次の快挙を見てみたい。(記者コラム・細野 友司)

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