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5教科495点&青学大・原監督も実力評価 東大・近藤は究極の文武両道ランナー

2018年1月1日18時0分  スポーツ報知
  • 青学大・下田(左)と練習する東大・近藤

 第94回箱根駅伝の号砲がいよいよ迫った。

 2018年1月2日。東大・近藤秀一(3年)は関東学生連合チームの1区ランナーとして東京・大手町のスタートラインに立つ。

 昨年11月下旬、近藤は千葉・富津市で行われた青学大の強化合宿に特別参加した。スピード練習、30キロ走と質量ともにレベルが高い青学大の練習を完璧にこなし「青学大の9区が10区を走ってほしいよ」と原晋監督(50)をうならせた。

 神奈川・箱根町と隣接した静岡・函南(かんなみ)町出身。小学生の頃から箱根駅伝を沿道で応援して近藤にとって、箱根駅伝出場は夢だった。しかし、一度は、その夢がついえた。

 予選会で敗退した大学の選手で編成される関東学生連合は前回まで「登録を含む本戦出場が1回以内の選手」が対象だった。そのため、1、2年時に連合の登録メンバー(16人)に入りながら補欠に回った近藤は一度も箱根路を走らないまま前回限りで資格を失った。

 特に前回は非運だった。予選会の個人20キロで58位。連合では10番手。前々回までの通例ならば、そのまま出場が決まっていたが、前回の連合を率いた中大・藤原正和監督(36)は1万メートル記録挑戦競技会で再選考する方針に変更。運命の競技会前、重圧に悩まされた近藤は調子を落とし、12番手に後退。出場を逃した。

 「箱根駅伝は自分が進むべき道を照らし続けてくれた。しかし、箱根駅伝の放つ輝きがまぶしすぎるため、箱根駅伝に近づいたら皮肉にも見えづらくなった」。東大ランナーは詩的な表現で前回の苦闘を語った。

 しかし、近藤は絶望を乗り越えた。昨年2月に東京マラソンに初挑戦。日本学生歴代21位となる2時間14分13秒の好記録で27位に食い込んだ。「マラソンを経験したことで箱根駅伝を俯瞰(ふかん)して見られるようになった」。新境地に達した時、朗報が届いた。昨年7月、関東学生連合の選手資格が「本戦出場経験がない選手」に変更。みたびチャンスを手にした。

 もはや、迷いも重圧もなかった。

 今回の予選会では常連校のエース級と対等に走り、個人20位。今回は予選会20キロと1万メートル記録挑戦競技会の合計タイムで出場10選手を選考する方針に再度、改められたが、近藤には影響がなかった。堂々のチームトップで、東大選手として2005年に関東学連選抜(現連合)の8区を走った松本翔以来、箱根路を駆けることが決まった。「1区を走って東大陸上部の存在感を示したい」。近藤は堂々と話す。

 青学大の原監督は「箱根駅伝出場を目指す大学には必須の3条件がある。一にスポーツ推薦、二に選手寮、三に強化費。近藤君はひとつも当てはまらないのに強い」と脱帽する。ただ、当の近藤は「僕は環境に恵まれていないとは思わない」とさらりと言う。

 東京・文京区の東大本郷キャンパスから自転車で約15分のアパートで一人暮らし。日本最高峰の工学部の学生として実験の忙しい日々を過ごしながら練習に励む。週1回は家庭教師のアルバイトもしている。「親から毎月、数万円の仕送りをしてもらっていますが、夏の合宿費くらいは自分で稼ごうと思っています」と当然のように話す。

 箱根駅伝常連校の中では12月に入ると、沖縄などで合宿を張るチームもあるが、近藤は年の瀬が迫った29日まで授業、実験に参加した。多くの箱根駅伝ランナーとは環境が大きく異なる。

 その考え方も独創的だ。

 箱根駅伝常連校の多くは月間走行距離を重視する。夏の鍛錬期は「1か月1000キロ」が目安となるが、近藤は約500~600キロ。「決して月間走行距離にこだわらない。強くなるための『手段』であるはずの月間走行距離が『目的』になっては本末転倒です」と冷静に話した。

 学生時代、私は低迷期の東洋大陸上部の所属していた。それから、はや四半世紀。今さらながら近藤の言葉に“目から鱗が落ちる”思いだった。二流の学生ランナーだった私が常に意識していたのが月間走行距離。「よし、今月は1000キロ走ったぞ」と満足していた。私なりに努力をしていたつもりだったが、箱根駅伝では区間13位と区間14位が精いっぱいだった理由が分かった気がした。

 近藤の取材は面白い。ふとした雑談でも驚かされることがある。

 私「中学生の頃、中間テストや期末テストで何点くらいだった?」

 近藤「5教科で495点くらいでしたね」

 東大生はやはり違う。究極の文武両道ランナー近藤秀一。新春の箱根路でも、ひと味違う走りを見せてほしい。(記者コラム・箱根駅伝担当 竹内 達朗)

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