リオ銀のリレー本番で走れなかった補欠2人の東京への挑戦…藤光&高瀬

2017年2月21日12時0分  スポーツ報知
  • 昨年7月、短距離合宿の集団走でしのぎを削る陸上男子400メートルリレーの日本代表6人(左から高瀬、藤光、ケンブリッジ、飯塚、桐生、山県)

 昨夏のリオデジャネイロ五輪で日本勢最高の銀メダルを獲得した陸上男子400メートルリレー。一躍時の人となった4人の陰に隠れ、代表に入りながら本番で走れなかった2人のメンバーがいる。今年31歳になる藤光謙司(ゼンリン)は「まだ自分に伸びしろを感じている」と20年東京五輪を目指す。高瀬慧(28)=富士通=は肉体改造に着手し、まずは8月のロンドン世界陸上に挑む。(構成・細野 友司)

 栄光の日本リレーメンバーは6人いた。この事実は意外と知られていない。リオの表彰台で。帰国後の日本で。テレビで手を振るのは、いつも4人。熱狂の中心にいたヒーローたちを、補欠の2人はどう見ていたのだろう。

 藤光「自分が関わってきたものが結果を出したのは、喜ばしいことだと思う。ただ自分は走れず、ああいう形で結果(銀メダル)がついてきた。悔しさがないと言ったら、ウソになる」

 高瀬「苦い五輪だったと思う。4年間積み上げてきたものが、(200メートル予選の)20秒で終わってしまった。何だったんだろうな…と。リレーを走れなかったのも、競技者として悔しい」

 大会前に左太ももを痛めた藤光は、チームの裏方に徹した。脚光を浴びることはなくても、貢献した自負はある。

 藤光「個性のあるメンバーが集まっていたので、誰かが外からまとめないと、うまくいかなかったと思う。食事の時間を決めたり、(スタッフとの)細かい連絡のやりとりもやった。忘れ物が多いので、注意を促したりもした。それでも決勝の時にケンブリッジがタイツを忘れて、実は自分のものを貸して走らせた。日本にいるような(安心できる)環境にするのが、自分ができることだった」

 サッカーなどの団体競技と違って、メダルをもらえるのは走った選手だけ。4人は帰国後もメディアやパーティーに引っ張りだこ。もちろん、チヤホヤされるために走っているわけではない。それでも、もどかしい気持ちは拭えない。藤光はベテランならではの思考法で切り替えた。

 藤光「リレーに関わってきたのに、自分が表彰されるわけじゃないので、何とも言えない複雑な部分はあった。でも、これで陸上が注目されていろいろな人の関心を集められるなら、それでいいと思った。陸上競技の活性化はもともと自分がやりたかったこと。でも、全てを自分が成し遂げられるわけじゃない。後輩たちが代わりに受け継いでくれたんだ、と考えた」

 爆発力を秘めるケンブリッジが好調で、控えに回った。高瀬は、状態次第では表彰台でボルトら金メダルのジャマイカと肩を並べている可能性もあった。当然、藤光とは違う感情を抱いていた。

 高瀬「メダルを取った4人がいろいろ(メディアに)出るのは何とも思わない。4人は本当にすごいと思ったし、そこは割り切っていた。ただ、自分は4年間やってきて今後、結果が出るのだろうか?と。東京五輪まであと4年間競技をやって、また同じような結果なら一体、自分には何が残るんだろう?と考え、不安になった。まるでギャンブルと一緒のような何も残らない感というか…」

 漠然とした不安と不完全燃焼。リオで情熱を燃やし尽くせなかった2人に共通する感情だ。高瀬は自身を鍛え直すことで、腹の底でくすぶった思いを吹き飛ばそうとしている。楽天の横山貴明投手(25)らを担当する加賀洋平トレーナーの下で肉体改造に挑んでいるのだ。

 高瀬「重点的に強化しているのが、でん部と背中。これまであまり使えていなかったお尻の筋肉で、しっかりと地面を押して走る感覚が出てきて、いい感じ。トレーニングの効率性も追求している」

 20年東京五輪を34歳で迎える藤光は、加齢との闘いが避けられない。新たなトレーニング法を模索し、走力の向上に努めている。

 藤光「今年は変化や挑戦の年。(世陸に)出ることが目標じゃない。3年半後につながる何かをしないと。例えば、200メートルはコーナー部の走り方で後半の動きも決まる。(下り傾斜のある)競輪のバンクを走って(加速する)感覚をつかんで、トラックに生かしたい。失敗してもいいから、今までやってこなかったような、いろいろなトレーニングを試したい。自分がさらに成長している可能性は必ずある。まだ自分に伸びしろを感じている」

 ロンドン世界陸上、そして東京五輪のリレーでは、過去最高の金メダルが目標となる。次こそ歓喜の輪の中に入るため、2人の再出発が始まる。

 高瀬「争いが激しくなればなるほど、個人のタイムも上がるはず。しっかり(リレーを走る)権利を取りたい。リオを超えるのは金メダルしかない」

 藤光「個々が戦える選手になった結果、やっと取れるのが金メダル。個人の力が大したものじゃないのに、もしリレーで金メダルを取っても、(強豪国から)何だか小バカにされたような気になるだけだと思う。ジャマイカや米国のように、個人種目のファイナル常連でリレーを組んで戦いたい。可能性はきっとある」

 栄光と屈辱を味わった2人の再挑戦が始まる。

 ◆藤光 謙司(ふじみつ・けんじ)1986年5月1日、浦和市(現さいたま市)生まれ。30歳。市浦和高―日大。社会人(セーレン)1年目の2009年にベルリン世界陸上初出場。10年に日本選手権200メートル初優勝。12年にゼンリンと所属契約。15年世界リレー(バハマ)銅メダル。200メートルの自己記録は20秒13。182センチ、69キロ。

 ◆高瀬 慧(たかせ・けい)1988年11月25日、静岡市生まれ。28歳。長田東小4年で競技を始めた。静岡西高―順大。2011年に富士通入社。同年の大邱世界陸上に初出場し、以降世陸は3大会連続出場中。五輪は12年ロンドン大会で初出場し、200メートルで準決勝敗退。100メートルの自己記録は10秒09、200メートルは20秒14。179センチ、67キロ。

 ◆リオ五輪男子400メートルリレー決勝 日本は入場の際に刀を抜く“侍ポーズ”を披露。飯塚が発案したもので、会場を沸かせた。レースは山県が好スタート。第2走者の飯塚とのバトンワークがやや乱れたが、影響を最小限にとどめた。第3走者の桐生はコーナーで加速し、ジャマイカや米国(レース後に失格)を相手に先頭争いをしながらアンカーのケンブリッジへ。走り終わった桐生が大声で後押しする中、ケンブリッジはボルトに次ぐ2位でゴールし、日本勢史上初の銀メダルを獲得した。

 ◆世陸展望 ロンドン世界陸上のリレーメンバーもリオ組の山県、桐生、ケンブリッジ、飯塚が有力。4人に割って入る力を持っているのが高瀬や藤光、昨年の日本選手権200メートルで3位に食い込んだ原翔太(24)=スズキ浜松AC=だろう。前回の北京世界陸上で代表だった大瀬戸一馬(22)=法大=は安定感があり、上位勢をうかがう存在。米フロリダ大へ進むサニブラウン・ハキーム(17)=東京・城西高=は個人種目の200メートルに軸足を置くものの、伸び盛りの逸材だ。

東京2020

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