新体操フェアリージャパンを金に導く「赤」への情熱

2017年3月21日14時0分  スポーツ報知
  • 田中琴乃さんの、左から(1)メイク前、(2)メイク後1、リオ五輪が行われた昨年の口紅は日の丸をイメージした深い赤、(3)メイク後その2、現在試作しているものは朱色に近い。昨年のものよりさらに明るく見える
  • 枡さん(左)は、田中さんが選手時代からメイクでバックアップしてきた

 2020年東京五輪パラリンピックで金メダルを目指す新体操日本代表「フェアリージャパン POLA」を「美」の観点からバックアップしているのが、美容コーチたちの存在だ。代表チーム専用のリップ(口紅)の開発に取り組んでいるのは、オフィシャルパートナー、株式会社ポーラの桝浩史さん(35)。美容コーチ6人の中でも、その美への造詣の深さに一目置かれている。たかが口紅などと思うなかれ。妖精たちを最大限に輝かせるための「赤」への情熱に迫った。(甲斐 毅彦)

 口紅へのこだわりを納得するためには、やはりメイクの実演をしてもらうのが一番だろう。東京・品川区のポーラ本社で、メイクのモデルをお願いしたのは、北京、ロンドン五輪に出場した元日本代表キャプテンで、現在は桝さんとともに美容コーチとして選手たちを支える田中琴乃さん(25)だ。

 桝さんが黙々とメイクを施し、田中さんは現役時代に口紅から得た底力を回想する。「鏡を見ながらリップを塗り直す時、それまで演技で失敗していても『できる!』と思える。すごいパワーがみなぎってくるのを感じていたんです。アスリートに限らず、ここぞという時に口紅を始めとする化粧品が女性に与える力はすごいな、と感じます」。力士ならばマゲを結い直す時間、歌舞伎俳優ならば隈(くま)取りの時間に相当するのかもしれない。メイクが完成するにつれ、向き合って話を聞いている者の気持ちまで引き締まって来るような気がした。

 現在、開発を進めているのは、大人っぽさを強調した昨年のリオ五輪の「ジャパンレッド」に黄色みを加えた朱色に近い赤。前作に比べると、さらに華やかさが増したような印象だ。「色が軽くなったのに合わせて、完成時には目元のアイラインを引き算してバランスを取るようになると思います」と桝さん。新メイクは、イタリアで開催される世界新体操選手権大会(8月29日~9月3日)へ向けての壮行会(5月または6月)で正式にお披露目されることになる。

 従来は既存品を使っていたが、代表チーム専用リップの提供を開始したのは、リオ五輪からだ。理由を2つ挙げるとすれば〈1〉15メートル離れた審判員の目から鮮やかに見えること、〈2〉既存品との差別化で選手の自信を深めること、となる。

 「機能を追究すると発色の仕上がりがなかなか思い通りにならない。この両立がすごく難しいんです」と桝さん。昨年度は自社研究所がある、ポーラ化成の研究員たちが、約50色の試作品を作り出し、桝さんがチェック。味の素ナショナルトレーニングセンターで、山崎浩子強化本部長(57)が15メートル離れた位置から見て、最後の1色を選び出すまでには、約4か月を要した。

 そもそも色に正解などはなく、追究に終わりはない。リオ五輪終了後には、改善すべき点が見つかった。美容コーチの中からは「本番での緊張も相まってちょっとリップの色が暗かった。もっと彼女たちが表情を生き生き、明るく見えるほうがいいかもしれない」という声も上がり、現在、桝さんを中心に開発中なのが、より明るめの色だ。

 新体操の団体演技は、わずか2分30秒で終わる。その一瞬のために、選手が一日7、8時間の練習を続けるのと同様に、桝さんたちも、2020年の東京、そしてその先へと美を追究し続ける。桝さんは「大きくは変わらず、ベーシック(基礎)をいかに洗練させていくかだと思います。(職人が)包丁を研ぎ澄ませていくみたいに」と話す。

 選手と美容コーチ両方の立場を知る田中さんは、メイクの力で後輩の妖精たちを勇気づけていくことこそを使命と考えている。「2020年には新体操が国内外で今以上に注目されていると思います。選手たちが自信を持って、舞台に立てるメイクをするのが一番大切。そこはぶれずにやっていけたらな、と思っています」

 ◆「気合がぐっと入る」新体操界唯一男性美容コーチ

 フェアリージャパン専用の口紅を開発する桝さんは慶大法学部時代に美容やファッションに関心を持ち、12年前にポーラに入社した。「自分の顔にメイクする趣味はないんですけど(笑い)。美容には表面的な美しさだけでなく、肌の状態が心や体調にも影響を及ぼすというサイエンスと織りなす部分もあるんです。ファッション業界以上に奥深く感じました」。新体操のナショナルチームに「美容コーチ」が付いていること自体が世界的に異例。新体操界では世界唯一の男性美容コーチと言えそうだ。「赤は色は、気合がぐっと入るということもあり、メイクのシンボリックなアイテム。やりがいを感じてやらせていただいています」

 山崎浩子日本体操協会新体操強化本部長「口紅は選手の華やかさを決めるポイントとなるが、選手の唇の元の色によって映え方が違うので、それを計算して5人が同じように見えるような口紅に期待したい。口紅は鮮やかだけれど、笑うと歯につくことがある。唇の上では取れないように。歯についたらすぐに取れるような成分の口紅があればなと思う。とにかく、日本人に合う『色』を求めます」

東京五輪

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