高校生が五輪食材を提供…青森・五所川原農林の挑戦

2017年5月16日14時0分  スポーツ報知
  •  自慢のリンゴを手に、“五輪出場”をアピールする五所川原農林高「グローバルGAPチーム」の生徒ら
  • 昨秋に「グローバルGAP」を取得した水田で稲刈りを行う生徒ら
  • 高校の敷地内にあるグローバルGAP認証取得の看板をアピールする(左から)伊東実柚さん、伊藤宗史さん、境谷彩華さん
  • 五所川原農林高校の場所

 現時点で日本唯一、五輪への農作物の提供を目指している高校がある。青森県の五所川原農林は15、16年と自ら生産するリンゴと水田(米)について、五輪食材の採用基準となる国際規格「グローバルGAP」を取得。五輪食材での「代表入り」を目指す。同規格は日本の全農家でも1%しか取得できておらず、このままでは五輪で国産食材がほとんど使われない可能性も指摘されている。日本の農業関係者も注目する同校の取り組みを追った。(樋口 智城)

 青森市中心部から車で約1時間。作家の太宰治や歌手の吉幾三を生んだ津軽平野の中心・五所川原市に位置する農業高校が、東京五輪に挑戦する。選手村などの食材提供に必要な国際規格「グローバルGAP」を、15年にリンゴ、16年に水田で取得。今年度はメロンを目指しており、“金看板”を武器に五輪参入を狙う。

 五輪の食材については、3月に大会組織委が「グローバルGAP」などの認証が事実上必要であることを発表。それ以外の食材や産地選択などの詳細は決まっていない。

 日本で「グローバルGAP」を取得しているのは、昨年末時点で農家・団体合わせて399件、全農家の1%だけ。輸入品に頼らず、国産食材をできる限り提供したい組織委にとって悩みの種となっている。高校で同規格を取得しているのは五所川原農林ただ1校。2年前に、生徒のみで書類手続きなどイチからスタート。5か月で認証にこぎ着けた。

 同校の山口章校長(59)は「来年度から『校内オリンピック委員会』というのを作ろうと思っているんですよ。東京五輪は来年入学の生徒が3年生になるときに開催されるので、いいチャンスですから」と説明。「どうすれば五輪に産品を出せるのか? 品目は? 量は? 生徒が計画を出して考えるような組織にしたいんです。食材を出し、最後は生徒が選手村に訪問してインタビューするところまで行くのが理想」と話す。

 同校の生徒は、「グローバルGAP」に関わったことで国際感覚も身に付けつつある。2016年9月には、オランダで開催された「グローバルGAPサミット」に生徒3人が参加。その取り組みが評価され、年間大賞に当たる「GAP Awards 2016」を受賞。高校の受賞は世界初の快挙だった。

 今年1月には「グローバルGAP」で認証されたリンゴを中国・成都で生徒が実演販売。650果を1日半で完売した。販売を体験した伊東実柚さん(3年)は「こういう体験を伝えていけば、後輩たちにも参考にしてくれると思う。私たちは高校では五輪に関われないけど、積み重ねを生かしてほしい」と話す。「グローバルGAP」チームの中心メンバーでもある伊藤宗史さん(3年)は「自分の実家で作っているリンゴも五輪食材提供を目指したい。高校での経験がなければこんなことも考えなかった」と笑顔を見せる。

 金メダルが期待される競泳・萩野公介や体操・白井健三らが食べることになる五輪食。日本で初めて「高校生の農作物が五輪選手村の食卓を飾る」という夢が実現するのか注目だ。

 ◆「東京から農業を変える」小泉進次郎氏も絶賛

 五輪への提供食材は選手村の食堂でアスリートへの栄養源になるほか、ボランティアへの食事提供など約1500万食に使われると見込まれている。毒性のあるものが混入することはもちろん、疑わしいと思われるだけでもアウト。まさに国家が威信をかけて取り組むプロジェクトだ。

 3月に発表された組織委の食料調達基準では、「グローバルGAP」「J GAP」「都道府県版GAP」の3つのいずれかの取得を事実上義務付けた。世界127か国、欧州では全農家の80%が採用している「グローバルGAP」以外の2つは、あくまで国内の認証規格。国際的に通用するとは言えない。組織委関係者は「食材も含めた環境面のテーマは『持続可能性』。将来的な日本の農業を考えると、国際的に通用するグローバルGAPを取得してもらいたいのが本音」と打ち明ける。

 将来的に世界で通用する国際規格を農家に取得してもらいたい政府や農林水産省にとっても期待は大きい。旗振り役となっているのは自民党の小泉進次郎農林部会長(36)だ。今年1月の講演では「東京五輪から農業を変える」と宣言。農家の「グローバルGAP」取得率が1%という現状に「このままでは自国で開催の五輪で国産農産物がほとんど提供されない状況に陥りかねない」と訴えた。

 進次郎氏は、2月に五所川原農林を視察。「高校生が5か月で取った。やる気になればできることを証明してくれている」と絶賛。直後には国会の答弁でもその様子を紹介した。同校の取り組みは「五輪を目指す」以上の意味も持っている。

 ◆グローバルGAP 「GAP」は「Good Agricultural Practice=適正農業規範」の略。00年に欧州の民間企業が「ヨーロッパGAP」を設立。07年に国際化を目指して現名称に変更し、全世界に広がった。同規格を取るには初回審査料で数十万円、1年ごとの更新に40万円ほど必要。年2回の抜き打ち検査もある。農林水産省は初回の審査料をほぼ全額補助しているが、その他は各農家の実費負担。200以上ある審査基準の厳しさなどもあり、日本での普及が進んでいない。

 ◆五輪食材の選定過程 組織委は、「基本的な理念」「どういうメニューにするか」「何食分を出すか」などを順次決めた後、生産者の選定を行う予定だ。現在は飲食戦略検討会議で「基本理念」を議論している最中。最終的な指針は18年3月頃に公表する。

 ◆五所川原(ごしょがわら)農林高校 1902年創立。「北津軽郡立農学校」を前身とし、数回の改称を経て48年の学制改革により、現校名となった。環境土木、森林科学、生物生産、食品科学、生活科学の5学科がある。五所川原のねぷた祭に出される「五農立佞武多」が地元で有名で、憧れて入学する生徒多数。OBに津島文治元衆院議員(太宰治の兄)、大相撲の誉富士、タレントの「元祖ムキムキマン」など。

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