競泳界の超新星、“ハイブリッドスイマー”幌村尚の強さの秘密とは

スポーツ報知
たくましい太ももで活躍誓った競泳バタフライの幌村(カメラ・頓所美代子)

 競泳界に期待の超新星が現れた。4月の日本選手権男子200メートルバタフライで五輪メダリストを抑えて初優勝を飾ったのが、早大2年の幌村(ほろむら)尚(19)。170センチと小柄だが、スケールの大きな泳ぎで急成長中だ。少年時代に育まれた抜群のキック力と、町の小さなプールで磨いた洗練された技術を併せ持つハイブリッドスイマー。同種目では日本勢初の金メダルを狙う19歳のルーツに迫った。(太田 倫)

 水面を飛んでいくようなスパートに、誰もついていけなくなった。4月6日、東京・辰巳国際水泳場。日本選手権の200メートルバタフライを制したのは、朴とつな19歳だった。1分53秒79というタイムは、昨季の世界選手権銅メダル相当。「幌村尚」が、東京のメダル候補として、その存在を知らしめた日になった。

 「気持ちよかったですね。バテずに、想定していたレース展開通りに運べた」

 170センチ、69キロと小柄だが、爆発的なキック力が武器。瀬戸大也(ANA)、坂井聖人(セイコー)という2人の五輪メダリストに大差をつけた。太もも回りは52センチという数字以上にたくましい。強じんな足腰のルーツは、兵庫・西脇市で育った少年時代にあった。

 「住んでいたのがすごい田舎で。小学校には、片道1時間を歩いて6年間通っていた。ササの葉の間をくぐったりして…」

 母校の西脇市立芳田小は、1学年30人ほどの小さな学校。通学路は起伏の多い山道で、マムシが顔をのぞかせることも。そんな山道は遊び場であり、同時に最高のトレーニング場だった。

 「普段から足は使う環境だった。自然に鍛えられたのかもしれないですね」

 3歳で水泳を始め、高校卒業まで西脇市に隣接する加東市のナイススポーツプラザ(SP)に通った。練習場所は一般会員と共用の小さな25メートルプールだった。

 「水深が(浅い所で)90センチくらいしかない。潜って、ドルフィンキックをすると足が底に当たるので、スタート練習とかはできない。コースも5レーンしかなくて、バタフライで両手を広げたら隣のコースロープに届いちゃうんです」

 早大の50メートルプールは浅くても1・3メートルだから、相当に浅い。コーチとマンツーマンの練習時間は長くて1時間半。レース仕様の練習ができない分、泳ぎの技術習得に費やした結果、水の抵抗が少ない、洗練されたフォームができ上がった。

 「1ストロークの推進力が高いと思う。滑らかな泳ぎは、自分でも好きです。この泳ぎで世界で戦っていければいい」

 西脇工時代には全国区となり、名門・早大へ進んだ。練習時間も2倍以上に増え、先輩の坂井らと競い合う中で、自己ベストは2秒以上も短縮。伸び盛りだ。

 「五輪ではまだ2バタで(日本勢は)誰も金を取れていないので、自分が取れれば。歴史をつくりたい」

 好きな言葉は、ボクシング漫画「はじめの一歩」の中に出てくる「A PASSING POINT」。通過点という意味だ。24日からはジャパンオープンに出場し、夏はパンパシフィック選手権、アジア大会に臨む。ゴールは東京での金メダル。ハイスピードで通過点を超えていく。

 ◆総監督が分析する幌村の強み

 早大の奥野景介総監督(52)は、幌村には3つの強みがあると分析する。

 「1つ目はキックが強いこと。2つ目はバタフライで手が入水したときに、水平な姿勢を取れること。頭がグッと(手より下に)入る人が多いが、幌村は手と頭が同じ位置にあって、水の抵抗が少ない。後は勝負勘がいい。自分の体力を見積もったり、このへんでこうやったら勝てるという戦略を立てるのにたけている」

 入学したての頃は、全体的に筋力が弱く、例えば手で水を最後まで押し切ることができていなかった。筋力が伴い、タイムも飛躍的に伸びたが、「ストロークは3割くらいできてきたかな?」と、まだまだ及第点は与えていない。逆に言えばそれだけ伸びしろもあるのだ。

 3歳上のリオ五輪銀の坂井を尊敬し、普段から隣のレーンで競い合ってきた。「坂井に追いつき、追い越したいという明確な目標があった」のも急成長の理由と指摘した。

 ★生まれとサイズ 1999年1月31日、兵庫・西脇市生まれ。19歳。170センチ、69キロ。
 ★競技歴 3歳から加東市のナイスSPに通い始め、小学校から選手コースで、バタフライを中心に取り組み始める。西脇南中から西脇工高へ進み、高2の時には世界ジュニア選手権の200メートルバタフライで優勝。昨年のユニバーシアード(台北)の同種目では、瀬戸を抑え金メダル。
 ★親友 柔道男子81キロ級世界選手権代表の藤原崇太郎(日体大)とは、芳田小で6年間同じクラスの大親友。登下校も一緒だった。
 ★愛読書 「はじめの一歩」はアニメを見てハマり、単行本も集めている最中。愛してやまないキャラは鷹村守。
 ★天然? 周囲の幌村評は「いい意味で水泳バカ」。普段から細かい忘れ物が多く、日本選手権のレース前もゴーグルが見あたらずアタフタしていたとか…。奥野総監督も、「あまり集中して人の話を聞いていないところがある」。天才肌に多いタイプかも。

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