渡利璃穏、がんに勝ったぞ!残り8秒逆転V…リオ五輪以来2年ぶり実戦

スポーツ報知
悪性リンパ腫との闘病を経て女子68キロ級で優勝した渡利(右は2位の関=カメラ・相川 和寛)

◆レスリング 全日本選抜選手権第3日(16日、東京・駒沢体育館)

 女子68キロ級は、悪性リンパ腫で闘病していた2016年リオデジャネイロ五輪75キロ級代表・渡利璃穏(りお、26)=アイシンAW=が、五輪以来2年ぶりの実戦で涙の復活優勝を遂げた。関千晶(27)=警視庁第六機動隊=との決勝は残り8秒で加点し、3―2で逆転。世界選手権(10月・ブダペスト)代表に決まった。20年東京五輪のメダルを目標に、強さに磨きをかける。女子62キロ級は川井友香子(20)=至学館大=が初優勝を果たした。

 渡利は諦めなかった。残り30秒を切ったところで同点に並ばれた。このままではラストポイントの規定により、負ける。「時間は見ていなかった。『絶対に勝つ』しか頭になかった」。残り8秒。タックルをかまし、関をマットの外に押し倒した。リオ五輪以来2年ぶりの実戦で執念の逆転勝利に、「本当に、率直にうれしい」。涙が頬を伝った。

 リオ五輪直前の16年7月、胸に腫瘍が見つかった。五輪後、9月の精密検査で判明した病名は、がんの一種で悪性リンパ腫の「ホジキンリンパ腫」。闘病生活が始まった。10月から半年間、2週に1度の抗がん剤治療。寝たきり状態が増え、立ちくらみに苦しんだ。指先に水ぶくれができ、腫れた。物に触れることすらできない。「本当にレスリングに戻れるのか。気持ちをもっていけるのか。体をつくり直せるのか」。何度も自問自答した。

 1年前の今頃は、腕立て伏せ10回がやっとだった。9月から体を動かし始め、今年1月にマット練習を再開。イメージする動きと、実際の体の反応の差にがく然とした。それでも頑張り続けた。「もう一度五輪に出て、メダルを取ろう」と支えてくれた家族の思いと、初戦で敗れたリオ五輪の悔しさが奮い立たせてくれた。

 この日、観客席では父・敏久さん(57)と、母・さとみさん(55)が見守った。さとみさんは「ここまで来たことが奇跡。よく最後の試合まで倒れず頑張ってくれた」と目を潤ませた。「闘病している人の苦しみを知った。以前は当たり前のようにレスリングをして、『練習嫌だな』って思っていたことが情けない」と渡利。20年東京五輪へ、強さを積み重ねていく。(高木 恵)

 ◆渡利 璃穏(わたり・りお)1991年9月19日、島根・松江市生まれ。26歳。松江市立第一中から愛知・至学館高―至学館大。2013年全日本選手権63キロ級初優勝。同級で14年仁川アジア大会優勝。リオ五輪は15年全日本選手権でライバルの川井梨紗子に敗れたため、2階級上げて75キロ級で出場権獲得。初戦の2回戦で敗れた。163センチ。

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