【怪力大関・栃ノ心】〈上〉サンボの達人・祖父に磨かれた怪力

スポーツ報知
ワイン農家だった祖父・ハリトンさん(右)の手伝いをする栃ノ心(栃ノ心提供)

 相手力士の巨体を軽々とつり上げる。左右の握力は90キロ以上。角界随一の怪力が栃ノ心の代名詞だ。最大の武器は亡き祖父・ハリトンさんが与えてくれた。

 旧ソ連時代に格闘術として発達したサンボの全国大会で優勝したハリトンさんは体重約100キロ。「おじいちゃんが強かったから遺伝かな。みんなの話を聞くと、俺より力が強いって言うんだ」。素質を受け継いだが、それ以上に受けた教えが後の礎になった。

 ワイン農家を営む家業の手伝いを命じられ「祖父が僕を鍛えてくれた」と感謝する。オノを使って木を切り、50リットルのバケツに水を入れて水槽を満たす作業で自然と体力がついた。「仕事を好きにならないと練習も頑張れない」が口癖で、早朝に起きて実家の裏山を走らされた。その後は背筋、スクワット、懸垂が学校に行く前の毎日の課題。シャワーを浴びると祖父が目玉焼きを焼き、パンに蜂蜜とバターをつけた食事を用意してくれた。

 柔道を始めたのもハリトンさんの影響だ。「ビデオカセットを借りて一緒に見た」と山下泰裕、古賀稔彦が五輪や世界選手権で活躍する映像を頭に刷り込んだ。6歳で始めたが1年で道場が閉鎖になった。孫の素質を見抜いていた祖父は、友人に頼み込んで栃ノ心が11歳のときに道場再開へこぎ着けた。

 晩年は寝たきりになった祖父の元へ、大会で優勝するたびに駆けつけてメダルをかけた。「『あなたがいたから僕も柔道が好きになったよ』と横に座って話した」。ハリトンさんは自身が来日する前に64歳で亡くなった。帰国するたびの墓参りには、実家で栽培する赤いバラと赤ワイン「サペラヴィ」を持参していた。今度は墓前に大関昇進の吉報を報告する。(網野 大一郎)

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