栃ノ心、新入幕から60場所のスロー昇進 夢で“口上”失敗し6度も目覚めるも本番はバッチリ

スポーツ報知
大関昇進の伝達を受け、誇らしげに母国ジョージアの国旗を掲げる栃ノ心(カメラ・能登谷 博明)

 日本相撲協会は30日、東京・両国国技館で大相撲名古屋場所(7月8日初日・ドルフィンズアリーナ)の番付編成会議と臨時理事会を開き、関脇・栃ノ心(30)=春日野=の大関昇進を満場一致で決定した。東京・墨田区の春日野部屋での伝達式で新大関は「親方の教えを守り」の一節を口上に込めて感謝の思いを表現。大関誕生は昨年夏場所後の高安(田子ノ浦)以来で、初の欧州出身横綱への期待も膨らむ。

 待ちわびた瞬間がついにやって来た。新大関・栃ノ心の誕生だ。協会からの使者を待つ間は緊張で汗が止まらず、顔を何度も水玉模様の水色タオルで拭った。口上は何百回も練習。失敗した夢を見ると午前3時に起きてまた反復。緊張で合計6回も目が覚めた。午前9時27分、使者2人が春日野部屋に到着。伝達式で満場一致の推挙が報告され、口上を述べた。

 「親方の教えを守り、力士の手本となるように稽古に精進します」

 口上は師匠・春日野親方(元関脇・栃乃和歌)と相談して決めた。日本語表現が不安なため、師匠は難しい文言を極力省いた。言葉選びの過程で栃ノ心が唯一、反対されても「自分の気持ちを伝えたい」と守ったのが「親方の教え」の一文。どうしても譲れなかった。

 入門から13年目。「17歳で日本に来て日本語も相撲も分からなくて。親方がゼロから教えてくれた」。三役経験後、右膝の大けがで幕下まで落ちた。同15枚目の14年初場所前、関取復帰を焦って医師から渋々ゴーサインをもらった。だが、師匠には涙ながらに強行出場を直訴しても、完治優先を告げられ却下された。

 新入幕から所要60場所の昇進は1位タイの遅い記録。「あの時、無理に出なくて良かった。膝を治してここまで復活できた」。遠回りしても「親方の教え」は正しかった。だから、口上を練り上げる際に感謝を込めて“逆らった”。普段はこわもての師匠も、現役時代の番付(関脇)を超える恩返しに「(親方の文言は)うれしいけど意図したことではない…」と照れ笑いした。

 理事会開催を要請した阿武松(おうのまつ)審判部長(元関脇・益荒雄)は「大関だけでは終わらない、次の可能性のある力士」と欧州出身初の横綱に期待を膨らませた。春日野部屋の大関誕生は56年ぶり。栃ノ心は「責任が重い。部屋のために頑張る」と応えた。師弟の二人三脚で名門の伝統を守る。(小沼 春彦)

 ◆栃ノ心の大関昇進メモ

 ▽外国出身 15年夏場所後の照ノ富士(伊勢ケ浜)以来11人目。欧州出身では琴欧洲、把瑠都に続いて3人目。ジョージアからは初。

 ▽スロー 新入幕から所要60場所は2代目増位山と並び史上最も遅い。

 ▽春日野部屋 56年ぶりの大関。部屋からは栃錦も含め4人目。出羽海一門からは14年名古屋場所後の豪栄道(境川)以来4年ぶり。

 ▽3場所前は平幕 1958年の年6場所制以降では栃光、豊山、朝潮、北尾、照ノ富士に続き6人目。

 ▽逆境克服 三役から幕下に陥落を経験しての大関は81年秋場所後の琴風(現尾車親方)以来2人目。

 ◆大関になると

 ▽月給 234万7000円で三役から65万4000円の昇給。横綱は282万円。

 ▽降下 2場所連続の負け越しで関脇陥落。落ちた場所で10勝以上すれば復帰。

 ▽待遇 年3回の東京場所は自家用車で両国国技館の地下駐車場まで入れる。移動時も飛行機はファーストクラスで新幹線はグリーン車。

 ▽化粧まわし 房に位の高さを表す紫色の使用が可能に。

 ▽横綱昇進には 2場所連続優勝か、それに準じる成績が必要。鶴竜、稀勢の里と最近の2横綱は昇進直前場所の初優勝で上がっている。

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