【怪力大関・栃ノ心】〈下〉師匠の厳しさの裏にある愛情に気付いた

スポーツ報知
春日野親方(右)と乾杯をする栃ノ心

 夏場所千秋楽の朝の稽古場。右手首の負傷から、ぶつかり稽古で力が出ない栃ノ心を見て師匠・春日野親方はあえて言った。「痛くて力が出ないなら勝てないな」。12連勝した後は2連敗。弱気を見抜いて弟子の闘争心を刺激し、13勝目につなげた。

 師弟の出会いは13年前。当初は外国人の受け入れに難色を示していたが、体験稽古で幕下力士を投げ飛ばした17歳の栃ノ心を見て「ものが違う」と入門を許した。それでも“やんちゃ”な性格でよく叱られた。「俺は一生懸命やっているのに…。もっと頑張れと師匠は言う」。最初は理解できなかった厳しさの裏の愛情に気づくと信頼が深まった。

 部屋の力士全体の成績が振るわなかった10年ほど前の場所中の夜。春日野親方は自らまわしを締めて稽古場に立った。「いいか、こうして相手を引きつけるんだよ!」。関取衆を横に立たせ、幕下以下は上がり座敷に座らせ指導。その姿を新大関は決して忘れない。門限破りも重なって、11年には師匠がゴルフクラブでたたく体罰事件も起きたが「自分が悪いから怒られた。怒ってくれる愛情が分かった」と感謝する。

 初場所中、過去に起きた傷害事件発覚で部屋は揺れた。「一生懸命やっているみんなに申し訳ない」と弟子にわびた春日野親方の姿に「俺が頑張ればオヤジは喜んでくれるかな」と発奮して初優勝した。師匠から譲り受けた銀の締め込み、師匠が書いた「心」の文字の化粧まわしを、大関になっても使い続ける。(網野 大一郎)=おわり=

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