高梨沙羅、やっと届いた日本女子初の銅「涙止まらない」

スポーツ報知
悲願のメダルを獲得した高梨沙羅は、涙を流しながらも満面の笑みを見せた(カメラ・相川 和寛)

◆平昌五輪第4日 ▽ジャンプ女子ノーマルヒル(12日、アルペンシア・ジャンプセンター)

 女子個人ノーマルヒル決勝(HS109メートル、K点98メートル)が行われ、昨季W杯個人総合女王の高梨沙羅(21)=クラレ=が103・5メートルを2本そろえて合計243・8点で、この種目では日本勢初となる銅メダルに輝いた。ジャンプ女子が初採用された14年ソチ五輪で4位に終わった悔しさを晴らした。伊藤有希(23)=土屋ホーム=は9位、岩渕香里(24)=北野建設=は12位、勢藤優花(20)=北海道ハイテクAC=は17位。マーレン・ルンビ(23)=ノルウェー=が264・6点で金メダルに輝いた。

 もう重荷は背負わなくていい。2回目を終えた沙羅は、無意識に胸の前で両手を合わせた。ホッとしていた。「いいジャンプができたと、瞬間的に分かった。自分を信じて、無心で飛べた」。ルンビとアルトハウスに次ぐ銅。願った色ではなかったが、日本勢女子初のメダル。「これでソチの悔しさをはね返せた」。観客席はたくさんの日の丸、そして「沙羅ちゃ~ん」の声。まるで日本のようだ。支えてもらうありがたみを感じ、涙腺は崩壊した。記憶に残る、うれし涙だ。

 昨春のハワイ合宿。TBS記者の兄・寛大(かんた)さん(25)の取材に「(平昌の)金メダル」を宣言した。「カメラや記者の前で金といったのは、そこが初めて。どんなに格好つけても取りたいんだから、金って言っても良いんじゃない?とは話していた」と寛大さんは明かす。今季W杯10戦未勝利。勝てなくても、2月12日をピークにすると定め、気持ちはぶれなかった。

 絶対的な優勝候補として臨んだソチはまさかの4位。表彰台を逃したジャンプを夢で見て、夜中にガバッと起きた。自分は大一番に弱いのか―。4歳から中学2年まで北海道・上川町のバレエ教室で指導した板谷敏枝さん(50)は「むしろ大舞台で緊張をしない方。小学生の時の発表会では、大人の男性と組んで演じる重要なキュービッド役を、たった2~3回の練習だけでこなしたこともあります」と証言する。W杯男女歴代最多53勝。力は示した。それでも、何かまだ足りない。

 沙羅の答えはこうだった。「自分と話し合う時間が、ソチの頃は足りなかった」。昨春から、1センチほどの厚さのメモ帳を持ち歩くようになった。良かった点、悪かった点、指導された内容を書き留め、行き詰まった時に見返す。メモは1月末で3冊。牧野講平トレーナー(38)は「書き出すことで整理して課題を見つけやすい。メンタル的にも落ち着くのでは」と推し量る。平昌入りした沙羅に、山田いずみコーチは「ソチの時より、今の顔が好きだよ」と言った。見た目からして、成長は明らかだった。乗るべくして表彰台に乗った。

 キャリアの先には、22年北京五輪、そして26年五輪は札幌開催の可能性がある。究極の目標は、男子と同じゲートから飛んで勝つこと。牧野トレーナーは「(実現すれば)力じゃない、と示すことになる。ジャンプの常識が覆るかな」と楽しげだ。「まだ自分は金メダルの器じゃないと分かった。新たな目標ができたので、北京で今度こそ金メダルをとりたい」。沙羅のとびきりの笑顔が、吹雪の夜空に輝いていた。(細野 友司)

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