新田佳浩、スタート直後転倒も完全燃焼金メダル 妻も感涙「取ると信じていた」

スポーツ報知

◆平昌パラリンピック第9日 ▽距離 男子10キロクラシカル立位(17日、アルペンシア・バイアスロンセンター)

 男子10キロクラシカル立位で、1998年長野大会から6大会連続出場の新田佳浩(37)=日立ソリューションズ=が24分6秒8で金メダルに輝いた。銀メダルだった14日のスプリント・クラシカルに続く表彰台で、10キロクラシカルと1キロスプリントで2冠だった2010年バンクーバー大会に続いて自身3個目の金メダル。日本選手団の今大会獲得メダル数は、9個となった。

 新田は「よっしゃー!」とガッツポーズを連発した。最後の直線は懸命にストックをつき、全身に力を込めた。37歳の完全燃焼だった。ゴール後のセレモニーではスキー板にそっとキス。「頑張ってきてよかった。諦めず滑れば結果はついてくると思っていた」と喜びに浸った。

 スタート直後、最初のカーブでいきなり転倒も、6大会連続出場のベテランは「10キロだから何とかなる」と冷静だった。スピードをキープして中盤まで2~3位を争い、終盤でトップに立つ理想的なレース。僅差で金を逃したスプリント・クラシカルの雪辱も果たした。

 丸太のように太い脚は健常者のアルペン選手並みのパワーを秘める。雪面を瞬間的に蹴る力が強いあまり、スキー靴は毎年のように壊れるほど。14年ソチ大会はメダルを逃したが、国の医科学支援を受けて肉体強化に注力。元五輪選手の長浜一年ヘッドコーチと年200日超を一緒に過ごし、バランスの良い滑りを磨いた。「昨日の自分より、今日の自分の方が強いと思える」。自分を信じて力に変えた。

 3歳の秋、祖父の運転するコンバインに左腕を巻き込まれた。救急車が来る騒ぎの中、近所の人たちが刈られた稲わらから失った腕を探し出してくれた。きれいに洗い、氷と一緒に袋に入れられていた。受け取った祖母・ひさ子さんは自宅近くに立つ杉の木の下に埋め、新田に言った。「この木のように、素直に大きくなってね」。プラモデルは足に挟んで組み立て、ソフトボールは右手のグラブでボールを受けてグラブを外して右手で投げた。スキーもそう。右手のストック1本を駆使し、出せる100%を大舞台にぶつけた。

 今大会最後の個人種目で有終の金メダル。そばで支えてきた妻・知紗子さんは「世界で一番応援していた。金メダルを取ると信じていた」とむせび泣いた。18日には、今大会最終種目の混合10キロリレー。「自分自身に負けないため、この4年間やってきた」。残り1戦、魂の滑りで締めくくる。

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