平昌パシュート金・菊池彩花、現役引退へ…幸せだった「ありがとう」の声

　２月に行われた平昌五輪のスピードスケート女子団体追い抜き（パシュート）で、山梨県勢初の金メダリストとなった菊池彩花（３０）＝富士急＝。６日には複数の関係者の話で、現役引退の意向であることが分かった。右脚の大けがを乗り越え、栄光を手にしたヒロイン。今月初めに受けた「やまなし報知」のインタビューでは、受けた声援と「ありがとう」の言葉に改めて感謝した。

　平昌の歓喜から５週間。この日、現役引退の意向を持っていることが判明したが、県勢初の金メダリストは、五輪後も慌ただしい日々を過ごしてきた。３月には世界選手権（オランダ）、Ｗ杯最終戦（ベラルーシ）に出場。Ｗ杯では女子団体追い抜きで高木美帆（２３）＝日体大助手＝、佐藤綾乃（２１）＝高崎健康福祉大＝らと共に、優勝で最終戦を飾った。今月２日には所属する富士急のグループ入社式に出席し、新入社員にエールを送った。

　「平昌五輪では本当にたくさんの応援をいただき、それを金メダルという形にできたことを、改めて、うれしく思いました」

　５人姉妹の次女。平昌では、ショートトラックで三女の悠希（２７）＝ＡＮＡ＝、五女の純礼（２２）＝トヨタ＝が代表入りし、冬季五輪では初となる姉妹３人同時出場を果たした。個人種目では３０００メートル１９位、１５００メートル１６位。レース後、故郷の長野・南相木村から応援に駆けつけた父・毅彦さん（６１）、母・初恵さん（５５）、妹らに激励を受けた。団体追い抜きでは、カナダとの準決勝に出場した。オランダとの決勝はリンクサイドで見守り、金メダルが決まると、大粒の涙を流して喜んだ。

　「個人戦では悔しい思いをしましたが、家族や周囲の支えのおかげで、団体追い抜きに向けて気持ちを切り替えられました。（出場した）準決勝では、今までで一番いい滑りができました」

　金メダルを携えて帰国。周囲の反応に驚いたという。

　「『おめでとう』と言われたことは何度もありましたが、今回、『ありがとう』と、たくさんの方に言っていただきました。ここまで苦しい思いをたくさんしてきましたが、その結果を多くの方が自分の事のように喜んでくれたんだ、と幸せに思いました」

　２０１６年８月、練習中に転倒し、スケートの刃で、右ふくらはぎを２０センチ近く切った。腱（けん）なども断裂する大けがだった。治療に専念し、１シーズンを棒に振った。再びリンクに戻り世界を相手に戦えるのか―。不安の中でリハビリを続けた。そんな時、支えとなったのは心に留めている言葉だった。

　「『ステップ・バイ・ステップ』という言葉です。私は、どんな事でも、大切なのは日々の積み重ねだと思っています。ケガをした現実と、平昌を目指す自分の思いに板挟みとなり、苦しんだ時期もありました。それでも氷に立つ、レースに出る、全日本で勝つ、と目標を決め、練習を重ね、階段を上がってきたことで、（１４年の）ソチ大会に続き、２度目の五輪リンクに立てました」

　制服からすらりと伸びる右脚には、今もうっすらと傷痕が残る。

　「形成手術で消すことも勧められましたが、このままにしようと思います。これを見るたびに、あの苦しかった日々と、そこからはい上がった気持ちを思い出すことができる、大切な私の歴史です」

　金メダリストとして戻った菊池を、みんなが温かく迎えてくれた。南相木村や、富士急本社のある富士吉田市など、各地で表彰行事が現在も続いている。富士急では菊池の功績をたたえ、４月１日付で、これまでの主任心得から係長への３階級昇進となった。様々なものを運んでくれたメダルを前に、思う事がある。

　「金メダルの輝き、この価値を決めるのはこれからだと思います。私自身は何も変わっていませんが、多くの方に注目していただく以上、言葉や行動に重みが伴ってきます。自分を磨く努力を忘れずに、今を大事に生きたいです。いただいた金メダルがさらに輝きを放つのか、ただの塊になってしまうのかは自分次第だと思います」

　関係者によると、８日に引退を表明するという。新年度を迎えた４月。インタビューの最後に、菊池は新たなステージに立つ人々に、自らの人生を重ね合わせた。

　「一人一人の胸に、夢や目標があると思います。今を楽しんで、この一日、この一瞬を大事に過ごしてほしいです。それを積みあげていけば、きっと願いはかなうと、私は信じています」

　◆菊池　彩花（きくち・あやか）１９８７年６月２８日、長野・南相木村生まれ。３０歳。５人姉妹の次女で、母・初恵さんの影響で幼少期からスケートを始めた。佐久長聖高から２００６年に富士急入社。五輪は１４年ソチ大会１５００メートル３１位。１７０センチ、６１キロ。趣味はパイナップル柄の小物集め。