モーグル銅の原大智、五輪「金」以外いらない 渋谷出身“都会っ子スキーヤー”の素顔

2018年5月12日14時0分  スポーツ報知
  • 学業との両立も果たした原大智(カメラ・橋口 真)
  • 銅メダルを掲げる原大智(カメラ・橋口 真)
  • フリースタイルスキー男子モーグルで銅メダルを獲得した原大智(カメラ・相川 和寛)
  • 高負荷トレーニング用の流水プールも備える

 日本のメダルラッシュに沸いた今年の平昌五輪で、人生を変えた男がいる。フリースタイルスキー男子モーグルの原大智(21)=日大=は、同五輪の日本勢第1号となる銅メダルを獲得。日本男子モーグルでも史上初となる五輪表彰台に立った。16年創設の日大スポーツ科学部(東京・世田谷区)の最先端施設で学業とトレーニングを両立し、体脂肪率8%まで鍛え上げた体が快挙の源。アニメ観賞で息抜き、そしてラーメンが好物という東京・渋谷区出身の“都会っ子スキーヤー”の素顔に迫った。

 日本男子モーグルに待望の銅メダルをもたらした原は、それまでW杯最高位は4位、世界選手権も表彰台は遠い成績。平昌の日本勢表彰台1号は、文字通りサプライズメダルだった。

 「人生の分かれ道だった場所で楽しめたというのが、本当に奇跡的な感じです。(大会前は)成績を残していなかったので、もう次は目指せないと思っていた。平昌が最後になるかなという感じでした。小さい頃から目指してきた五輪で、結果が残せてうれしい。それ以外の言葉は出てこない」

 1年前に味わった、かつてない失望感が出発点だった。同世代ライバルの堀島行真(20)=中京大=が、17年3月の世界選手権で日本勢初の2冠達成。自身はモーグル23位が最高だった。

 「彼(堀島)は天才プラス努力家。悔しさは通り過ぎて、真っ白になって、『もういいかな』って感じ。『俺はもうここまでなんだ』と思い始めてきた。この競技に僕が勝てる部分はない、という諦めモードでしたね。そこからは、未練を残さずすっぱり辞めようという気持ちでした」

 ただ、平昌までは、限界を超えて自分を追い込むと決めた。

 「やはり筋力トレーニングは、(代表選手の中でも)負けはしないですね。体脂肪率は8%。朝5時半に起きてロードバイクを30分~1時間こいで、さらに体幹トレーニングを30分。これは大学(の授業)があっても、必ずやります。大学から帰ってもまた1時間こいだりします。いうなれば、自然と闘わないといけないので。コブと戦ったり(エアの)着地だったり、自然VS自分の真っ向勝負で力負けしないように筋力トレーニングをする、という形ですね」

 練習に裏打ちされた自信は、背水の覚悟で臨んだ平昌で、大きな力をくれた。負ける気はしなかった。

 「ワンミスが命取りという競技なので、その部分で多少は怖がったかもしれないけど、今の自分自身のパフォーマンスは本当に満点つけられるくらいだったので、ミスをするということは考えられなかったですね。小さなミスはあるだろうけど、転んだりコースを外したりというミスは考えられなかったですね。W杯では全然合わなかったことが、五輪では歯車が完全にあった瞬間でしたね」

 3歳でスキーに出会い、小学6年生の頃にモーグルを本格的に始めた。

 「僕がモーグルを始めた理由には、やっぱりかっこよさがあった。コブの中をまっすぐ降りていって、なおかつジャンプや回転技をやるというのが素晴らしい。映像と違って生は迫力があって、自分でやってみるとこんなに難しいのか、って思うんですよね。斜度(国際規格では最大37度)も、スタート台に立つと映像よりは全然あるなと。『そんなに急なの』って」

 高校はカナダ留学を経験。言葉の壁に苦しみながら、モーグル大国で力を磨いた。

 「語学は、諦めないことでしたね。精神的にすごく強くなりました。あとは、マイペースになった。向こうの考え方を取り入れて、周りのことを全然気にしない感じになりました。(競技面では)春から7月までの雪上トレーニングと筋力トレーニング、ウォータージャンプ場が全てそろっているのが素晴らしかった。移動は自転車だけ。本当にトレーニングのことしかない状況が、すごかったですね」

 平昌でメダリストになり、競技への注目を集めるきっかけにはなった。だから、もっともっとモーグルを楽しむ人が増えてほしいと思う。

 「会場で第2エアまで上ってみて、斜面の角度や横を選手が滑っていく速さを感じてほしい。真っ正面だとずっと選手を見られるからスピード感が分からないけど、横からだと本当に速い。カメラを構えてもフレームから出てしまうくらい。映像では伝わらない姿があるので、実際に会場まで来て見てほしいなというのがありますよね」

 17年から日大スポーツ科学部競技スポーツ学科に在学。後期(冬学期)は遠征などで多忙のため、前期(夏学期)は週5日間、計30単位の授業を入れている。

 「だいたい、1限から3~4限まであって、朝9時から終わるのは(午後)4時過ぎになります。技術トレーニング論、トレーニング計画論、近代スポーツ史とかですね。年間で44単位。後期は全然行けないので、前期に詰め込む形になっています。昨年は五輪シーズンなので合宿などが多かったですけど、今年はなるべく大学に行けるかな、という感じですね」

 息抜きは、自室のパソコンでアニメを見ること。ヘッドホンをつけて画面に没頭すると、気持ちが落ち着いていく。

 「オフの日には自分一人の世界に入れるのが好きで、リラックスできる感じですかね。『ノーゲーム・ノーライフ』とか、『弱虫ペダル』とか、本当にいろいろあるんですけど。アニメの中に、僕というキャラクターを出してほしいという願望もありますね。(メダルを取った後に)もっとバンバン言っておけば良かった、と後悔しています(笑い)。モーグルが題材のアニメとか漫画とか、ドラマとか作ってほしいなというのもあります。ドラマなら、スタントマンでいいからやりたいな」

 ラーメンもリフレッシュには欠かせない。体重管理に影響するため、敬遠するアスリートもいるが、こう考えている。

 「体重を落としたければ、ラーメンを食べた以上に動けばよいわけです。練習量も増えるから、いいこと尽くしだなぁ~って。我慢するよりも、動く。『一風堂』の豚骨ラーメンが好きで。あとは、(野菜などの大盛りでも知られる)『ラーメン二郎』好きなんですよね。ジロリアン(ラーメン二郎の愛好者)にはなっていないですけど、1か月に1回、行ければいいかなぁ、というくらいですかね」

 東京・渋谷区育ち。若者が集まる最先端の街、オフィス街、住宅地…さまざまな顔を持つ故郷の街が大好きだ。

 「ハチ公とか好きですね。それから実家は渋谷駅から徒歩15分くらいですけど、住宅街なので比較的静か。駅まで行くとあんなに人がいるのに、と思います。大都会で仕事の街なのに、そこからスポーツ選手、しかも冬季の選手(メダリスト)が生まれた。渋谷区というブランドと、同じくらい(有名な)成績、名誉を残せたというのがうれしくて仕方ないですね」

 終止符を打つつもりで挑んだ平昌で、銅メダル。22年北京五輪へ、視界は開けた。

 「どこまでやれるか分からないけど、目指せるなら目指していこうと思っています。やっぱり勝たないと楽しくないので優勝していきたいですけど、どこをとりたいかと言われたら、やはり五輪という舞台。『W杯や世界選手権はくれてやる』という感じですかね。一番何が欲しい、何を手に入れたい、って言われたら、五輪金メダル。それ以外はいらない」

 身も心も震えるほどの歓喜を、再び味わえるのは五輪の舞台しかない。4年後を見据え、原大智は我が道を貫く。(ペン・細野 友司)

 ◆日大スポーツ科学部が強化に貢献

 原が在学する日大スポーツ科学部は、16年春に創設。東京・世田谷区の三軒茶屋キャンパスには、心肺機能を強化する高地トレーニングの状況を人為的につくり出せる「低酸素トレーニング室」や、目的ごとに4エリア(フリーウェート、マシントレ、有酸素トレ、フリー)に分かれた「トレーニングルーム」がある。流水の抵抗を生かした高負荷トレーニングができる「流水プール」も設けられ、最先端技術を活用した強化へ大きく貢献している。

 理想的な環境でのトレーニングに加え、最先端の「理論」を吸収できるのも強み。各スポーツに必要とされる筋肉の発達状況を測定できる「実験室」があり、「図書館」にはスポーツ関連の専門書が数多く備えられている。原も「スポーツのメンタル面や体の構造を知識として学べるところが面白いと思い、スポーツ科学部に決めました」と、文武両道の環境を生かして競技生活を充実させている。

 ◆原 大智(はら・だいち)1997年3月4日、東京・渋谷区生まれ。21歳。両親の影響で3歳からスキーを始め、12歳でモーグルを本格的に始める。16歳でカナダ・ウィスラーのカナディアン・スポーツ・ビジネス・アカデミーへ留学。2015年全日本選手権優勝。W杯ランクは15~16年に日本勢トップの8位。172センチ、75キロ。

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