池田高校の名将蔦文也さんの孫・哲一朗さん、徳島に貢献

2017年8月13日11時0分  スポーツ報知
  • 「DIYA」ブランドの長財布を手にする蔦哲一朗さん

 先月末に奈良県が初めて鹿の捕獲をスタートさせるなど、鳥獣による農作物への被害は全国的に問題となっている。そんな中、徳島県では駆除した鹿の革を使い、地元の伝統工芸である藍染めを施した製品を作るプロジェクト「DIYA(ディヤ)」が立ち上がり、年内の製品流通開始を目指している。中心となるのは「さわやかイレブン」「やまびこ打線」で甲子園を沸かせた池田高校の名将・蔦文也さんの孫で、映画監督でもある蔦哲一朗さん(33)。その蔦さんに「DIYA」に懸ける思いを聞いた。

 「じいちゃんとは違う形で地元・徳島に元気をもたらすと同時に、田舎の現実を知ってもらいたい」―。蔦さんの思いが込められたプロジェクト「DIYA」が今、花開こうとしている。

 蔦さんが徳島の獣害について知ったのは7年前、映画の題材を探すために故郷の祖谷地方を巡っている時、畑を襲う野生動物から野菜を守るために銃を持って山に入る「東祖谷猟友会」のメンバーと交流を持ったのがきっかけだった。駆除の様子は、監督デビュー作「祖谷物語―おくのひと―」にも収められたが、その後も蔦さんの頭の中には害獣駆除のことが残っていた。

 「尾の一部を切って持ち帰れば駆除したと認められるので、死体は供養もされないで山に放置されているのがほとんど。最近はジビエ料理がブームになったこともあって肉は活用されていますが、皮は産業廃棄物としてお金を払って引き取ってもらう。『もったいないなあ』と感じていました」。2014年に、猟友会が鳥獣処理加工施設「祖谷の地美栄」を開設したことをきっかけに、皮の利用方法を改めて考えたという。

 「安易かもしれませんが『革といえば財布かな』と思ったのがきっかけです」と蔦さん。でも、ただ鹿革を使って何かを作るというだけでは、「徳島らしさ」が生まれない―。そんな時、平安時代に起源があるともいわれる地元の伝統工芸が頭に浮かんだ。「鹿革を藍染めしてみたら、あまり見たことのないものができるのではないかと思ったんです」。そこから「DIYA」が本格的にスタートした。

 藍染めをするにあたっては、まず最初に地元で布を染めている企業と挑戦したものの、均一に染まらなかったり色づけした後の革のケアができなかったりと、作業は難航。その後、牛革を染めている人にアドバイスをもらい、業者を紹介してもらった。最終的には、地元で取れた皮を和歌山県でなめして革にし、徳島県産の本藍を使用して京都で藍染めしたものを地元の革職人が製品化するという「流れ」ができあがった。

 交渉の過程でさまざまな人と出会う際には、「蔦」の名前が役に立った。「地元では『蔦』と聞けばすぐにじいちゃんのことが思い浮かぶでしょうし、地元以外であっても、ある世代以上の人だったら『ん?』と興味を示してくれる。大きなプラスになりましたね」。和歌山に行った時には、同県の古豪・箕島高校を率いた元監督の尾藤公さんと祖父の蔦監督との交流が深かったことから、大いに盛り上がったという。

 もちろん、「地元の英雄」である蔦監督の名前を利用することを良しとしない声が一部ではあるだろうことも理解している。「本当のじいちゃんのファン、池田高校野球部のファンにとっては面白くないところがあるかもしれませんし、いろいろ言われることもあります。でも、それに関しては気にしていないですね」と蔦さん。そこには「徳島のことを、もっと発信していきたい。そのためには“武器”になる名前も使えるし、じいちゃんとは戦う分野も違うので」という強い気持ちがある。

 「DIYA」という名は、鹿(Deer)と祖谷(IYA)を組み合わせたものだ。「徳島、祖谷の人たちに支えられたからこそ、僕は地元で映画を撮ることができたし、このプロジェクトをたちあげることができました。そのお礼ではないですが、何か還元することができれば」と蔦さんは言葉に力を込めた。

 現在は年内にネット販売をスタートすることができるよう、準備を進めている最中。長財布や名刺入れ、iPhoneカバーや手袋などを「第1弾」の商品として考えている。また、準備資金調達などを目的としたクラウドファンディングを実施している。

 ◆本業映画監督で新作製作「黒の牛」

 蔦さんは、“本業”の映画監督としては現在、最新作「黒の牛」(仮題)の製作に取りかかっている。

 全国各地に名産としてある「黒毛和牛」の“元祖”ともいえる兵庫県の「但馬牛」の改良に人生を懸けた江戸時代後期の畜産家・前田周助の姿を描いた物語。「かつては、人間と牛が同じ家の中で一緒に生活していた時代があった。人間と自然の共存をテーマに、その当時の様子を描きたい」という。現在は脚本作りの真っ最中。京都府と映像産業振興機構(VIPO)が主催する「京都映画企画市」の協力を得て、パイロット映像も完成した。

 また、代表を務める映画製作配給会社「ニコニコフィルム」では、5日に公開された映画「リベリアの白い血」を配給。米ニューヨーク在住の福永壮志監督が、ニューヨークとアフリカを舞台に描いた移民の物語で、2015年の米ロサンゼルス映画祭で最高賞(USフィクション賞)を受賞している。

 ◆蔦 哲一朗(つた・てついちろう)1984年6月29日、徳島・池田町(現在の三好市)生まれ。33歳。祖父は元池田高校野球部監督の蔦文也さん。東京工芸大に進学し、映画と出合う。大学の友人らと結成した映画サークルの卒業製作として2009年に16ミリ映画「夢の島」を発表。同年の「第31回ぴあフィルムフェスティバル」で観客賞を受賞。13年、「祖谷物語―おくのひと―」で商業映画デビュー。16年に祖父の姿を描いたドキュメンタリー映画「蔦監督 高校野球を変えた男の真実」が公開され、現在も上映会が行われている。

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