里見女流名人V9へ好発進、序盤から超積極手「楽しい形」で攻め続ける

スポーツ報知
先勝し、大盤解説会場で笑顔を見せる里見香奈女流名人(左)と挑戦者の伊藤沙恵女流二段(カメラ・関口 俊明)

 神奈川県箱根町の岡田美術館で14日、第1局が行われ、後手の里見香奈女流名人(25)=女流王座、女流王位、女流王将、倉敷藤花=が挑戦者の伊藤沙恵女流二段(24)に98手で先勝し、9連覇に向けて好スタートを切った。序盤の超積極手△4五銀が奏功。果敢に攻め続けたまま、一気に寄せ切った完勝譜に、局後は珍しく笑顔も浮かべた。第2局は28日、島根県出雲市で行われる。

 まさかのピュアスマイルだった。終局後、3期連続3度目の箱根対局で初勝利を飾ったことを問われた里見は「あ…そうか…、確かに去年と一昨年は…(敗北)」と初めて気付いたことを明かしつつ「あんまり意識してなかったのが良かったのかもしれません」。盤の前では決して笑わないはずの勝負師は、白い歯を見せて微笑した。

 前へ。2018年の決意を示す一局だった。今期だけで女流王位戦、女流王将戦、倉敷藤花戦に続く4度目のタイトル戦での対決となった伊藤との開幕局。戦型は先手向かい飛車・後手三間飛車の相振り飛車に進んだ。両者の対局では度々ある構図で、昨年11月の倉敷藤花戦第1局でも類型を指して里見が勝利していたが、女流名人はあえて自ら変化。26手目で積極的に△4四銀と進めた左銀を、さらに直後に△4五銀と進撃させるオフェンシブな作戦を採用した。

 「伊藤さんはいろんな形を指されるので、今日は考えていた攻めていく形、難しいけどやりがいのある形で指していけたらと思いました」。結局、伊藤が応手を誤ったことに乗じ、最後まで攻め続ける完勝譜になった。「しっかり時間を使って読んでいて楽しい形になって、いけそうだったのでまずまずかなって」。楽しい―。笑顔に続いて、求道者には異例の談話を述べた。

 9連覇を目指す王者だが、ジャイアンツ栄光のV9は「聞いたことはあります…」という程度。王貞治と長嶋茂雄が敵チームのライバルだったと勘違いするレベルだが、巨人軍から学んだことがある。

 漫画「空手バカ一代」を愛読するなど鍛錬する者に敬意を示す女流名人は最近、知人に薦められたノンフィクション書籍「地獄の伊東キャンプ 一九七九年の伝道師たち」を読破。江川卓、中畑清、篠塚利夫(現・和典)ら80年代に黄金期を築く若武者たちが猛練習に励んだ日々の記録に胸を打たれた。「中畑さんくらいしか知らなかったですけど…、すごく勉強になりました」

 次局は生まれ故郷の出雲に帰る。「いいスタートが切れて良かったと思います。一局を通して力を出し切れたので、次は第2局に向けて頑張りたいです」。再び浮かべた穏やかな笑顔は、女流名人の進化を物語っていた。(北野 新太)

 ◆今後の日程

 ▼第2局(28日)

 島根県出雲市「出雲文化伝承館」

 ▼第3局(2月4日)

 千葉県野田市「関根名人記念館」

 ▼第4局(同13日)

 東京都渋谷区「将棋会館」

 ▼第5局(同25日)

 岡山県真庭市「湯原国際観光ホテル菊之湯」

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