平昌から学ぶ東京五輪3つの課題…「天候」「輸送」「ボランティア」

スポーツ報知
日本選手団の入村式は「寒すぎる」という理由から選手の参加はなく関係者のみが参加した

 日本選手団が過去最多13個のメダルを獲得し、大いに盛り上がった平昌五輪。その裏では、数々のアクシデントやトラブルも起きていた。次の開催である東京は、隣国の五輪の経験をどう生かすことができるのか。人口1000万を超す東京と4万人ほどの平昌で単純比較はできないものの、参考にできる点は数多い。平昌を通じて浮き彫りになった、「東京五輪3つの課題」を探った。

 〈1〉天候対策
 「史上最も寒い五輪」といわれた平昌。被害に遭ったのは選手だけではない。応援席では、寒さや強風に耐えかね、終了を待たずに帰ってしまう人の姿も多く見られた。東京では逆に7~8月開催のため、熱中症や脱水症などを含めた酷暑対策が必須となる。東京都の小池百合子知事(65)は先月の定例会見で、平昌五輪について「気候対策について、東京は学ぶところがあるのでは」と、対策に本腰を入れている。
 都が現時点で力を入れているのは、競技会場周辺の暑さ対策。市町村や民間企業が、霧状にした水を噴射して冷却する「微細ミスト」を置いたり、歩道の路面温度を低減できる「遮熱性舗装」の設置などの事業を行う場合、費用は都が100%負担する仕組みになっている。期間は17年度から3年間で、対象は調布市や銀座周辺など都内6か所。今年度は約1億円の予算を計上した。
 五輪本番では暑さ対策の周知も必要不可欠となる。都の担当者は「平昌では私たちも『寒い』という事前情報が入っていたから、事前に防寒対策が取れた。何げにこういう基本的なことが大事なんですよ」と振り返る。高温多湿の酷暑となる恐れがある東京五輪。日本の気候に詳しくない外国人の観客に対しては特に事前告知が重要になる。都の担当者は「五輪期間中も、天候や気温、湿度に関する情報を徹底してどんどん出していきたい」と話していた。

 〈2〉輸送問題
 平昌ではバス約2000台、タクシーなど乗用車約2800台で輸送運行。道路に五輪関係の専用レーンを設置するなど工夫もしていたが、「本数が少ない」「時間通り来ない」など不満の声が聞かれた。開会式後をはじめとして、バスに乗れない人々が道路にあふれる混乱も見られた。周辺道路を予定より早めに告知なしに交通規制して渋滞を引き起こすなど、ある種の不手際もあった。東京でも目指すは「交通混乱の防止」だ。
 大会組織委によると、何も対策しない場合は五輪期間中の交通量は普段の2倍にふくれ上がるという。そこで検討されているのが、数々の交通抑制策だ。平昌でも行われた「五輪専用レーン」のほか、高速道路の交通需要の多い入り口の閉鎖、車両ナンバーによる道路への入場規制などが実現可能か話し合っている。2012年ロンドン五輪ではこれらの政策で渋滞緩和を実現しており、東京の組織委も参考にしている。
 また、国土交通省は東京五輪を見据え、13年から順次道路案内標識の英語表記を変更。外国人旅行者にも分かりやすく改善している。昨年には「止まれ」の道路標識に「STOP」の英語を併記。交通上の混乱を引き起こさない努力を行った。
 詳細な輸送計画は来年度中に決定する見込み。平昌の期間中にも現地の関係者と東京五輪の関係者が意見交換も行っており、今後は平昌の反省も生かしながら会合を重ねる。

 〈3〉ボランティア
 平昌では海外も含め約2万人が参加。寒さに耐えきれず帰国したり、食中毒が流行したことが話題になった。実際に視察した都のオリンピック・パラリンピック準備局の担当者は「明るさ」が印象的だったと振り返る。「競技場へ入るとき、ボランティアのみなさんが観客の方々に向かって元気に『アリアリ~』って話しかけてくれるんですよね」。祭典を楽しく全力で盛り上げようという意欲こそ東京五輪へのカギだと語る。
 「アリアリ」とは、平昌冬季五輪で互いを励ます時に「ファイト」の代わりに交わすあいさつとして、大会組織委員会が取り入れた韓国語。普段使う言葉ではなく、いわば造語だ。現地ではハンドサインを交えて積極的にコミュニケーションを取り、盛り上げに一役買った。
 16年リオ五輪では楽器を手に歌を歌うボランティアの陽気さが大会の華にもなっていた。「日本人はシャイなので、どれほどのことができるのか分かりません。ただ、ボランティアが楽しい雰囲気を作ろうという気概は、非常に参考になりました」と同担当者。
 東京五輪では、大会ボランティアは約8万人、東京地域限定の都市ボランティアは約3万人となる見込みで、9月から応募が始まる。東京では「おもてなし」精神がクローズアップされているが、平昌のようなお祭り機運を醸成する「はっちゃけ心」も必要なのかもしれない。

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