退職金つぎ込んでネパール大地震を映画にした伊藤教授…「カトマンズの約束」日本語版公開

2018年4月15日10時0分  スポーツ報知
  • 「カトマンズの約束」をPRする目白大学メディア学部の伊藤敏朗特任教授
  • 「カトマンズの約束」ヒロインのシタル・スレスタ(左)と主演のラメス・ラマ

 2015年4月25日に起きたネパール大地震から3年。震災をテーマにした日本とネパールの合作映画「カトマンズの約束」の日本語字幕版が完成し、25日に東京・中野ZEROホールで、渋谷ユーロライブでは30日から5月6日まで劇場公開されることになった。目白大に今月新設されたメディア学部の特任教授、伊藤敏朗監督(60)が自主製作。東京情報大を選択定年し、退職金をつぎ込んだという伊藤監督に、映画について、さらにはメディア学について聞いた。(酒井 隆之)

 日本での一般公開が決まった「カトマンズの約束」は、震災直後のカトマンズで大規模ロケを敢行、日本の国際緊急援助隊の活躍と被災地で復興へと立ち上がる人々の姿を描いた作品だ。伊藤監督は、目白大メディア学部の特任教授として映画論、シナリオ論、ショートフィルム論なども担当。東京・新宿区中落合の目白大新宿キャンパスにあるガラス張りのサテライトスタジオで、映画製作に至った熱い思いなどを語った。

 「自分で言うのも何ですが、映画論のいい教材になると思います。映画がいいというよりも、映画監督がカットや録音も含めて自分の映画を分析的に話すというのは、ありそうでなかったことなんです。評論家のような先生による解釈学とは違いますから」

 大学教授による自主製作映画はあっても、それが外国で一般公開されるのは珍しい。伊藤監督のネパール映画第3作の今作は、現地の約60館で上映された。そもそもは「マイ・ラブ」というラブストーリーとして2013年にクランクイン。教授と監督の兼業のため撮影が進まない中、15年に大地震が発生。「これでネパールの映画は終わった。もう撮れない」と絶望的な心境になる一方で、記録のためにカメラを持って8月に被災地に入った。

 1作目「カタプタリ」で訪れた村を俳優たちと慰問した。ロケで世話になった街並みが潰れたことにショックを受けていると、1人の被災したおばあさんから「いいのよ。あなたの映画の中に残ってるから」と言われ、作品の完成を決意した、という。被災地を舞台にしたラブロマンス、しかも不倫の要素もある。日本では不謹慎という感覚だろう。「そこがまるっきり違う。『どんどん撮ってくれ』と。ここの家の下敷きで人が死んだという所でも『いいよ』と」(伊藤監督)。

 ネパールとのつながりは06年に遡る。緑地公園の景観を形成する千葉県立市川工業高校の「第4次ネパール国際技術ボランティア隊」について、初めて訪れた。

 「江戸っ子たちの町というか、下町の濃密な人間関係ができている都市で、中世の建築が飾り物ではなく、そういう人たちによって生きている、動態保存されているような世界遺産なんです。デジャブ(既視感)というか、ここで生まれたんだっけな、というぐらいの思いにとらわれたんです」

 その時の現地のコーディネーター(通訳、バスガイド)がガネス・マン・ラマ氏だった。俳優兼プロデューサー。今回の主演男優だ。日本語が堪能で、副業で旅行業をやっていた。ネパールと映画が一直線でつながった。

 前2作は“雇われ監督”だったが、ライフワークの今作は、私財をなげうった。製作費は5000万円。30年勤めた東京情報大を選択定年した。

 「ちょっとした一時金が人生に1回だけ入るチャンス(退職金)があって、それを映画につぎ込んじゃった。私が教授になれたのもネパールのおかげだし、お金というのはまわりまわってネパールに返るんだと、自身に言い聞かせてますが、奥さんは『その理屈は何なの?』と、許してないと思います」

 東農大職員の夫人と独立している2男1女は、あきれながらも教授監督の作品を理解している。その情熱は、新天地のメディア学部で、多くの人材とその先に生まれる作品につながることだろう。

 ◆伊藤 敏朗(いとう・としあき)1957年7月9日、大分市生まれ。60歳。東農大農学部造園学科卒業。日大大学院芸術学研究科博士後期課程修了・博士(芸術学)。東京情報大教授を経て、目白大メディア学部特任教授。「カタプタリ~風の村の伝説~」(08年)、「カトマンズに散る花」(13年)、「カトマンズの約束」(17年)のネパール映画3部作を監督。1作目でネパール政府国家映画賞受賞。著書に「ネパール映画の全貌―その歴史と分析」(凱風社)がある。

 目白大に4月からメディア学部が新設された。昨年度までの社会学部メディア表現学科が学部に昇格。その1期生148人(男57人、女91人)が3日にめでたく入学した。メディア学部という名称は、東京工科大、城西国際大に続いて3校目となるがメディア情報学部などメディアの名がつく学部および学科は多数ある。

 かつては新聞学と呼ばれた学問はメディア学と名称を変えていることが多い。それでも上智大には文学部新聞学科、日大には法学部新聞学科が現存しており、滅びたわけではない。新聞学も含まれるメディア学とはどんな学問だろうか。

 目白大によると「メディア学部におけるメディアとは媒体・表現・技術・場であり、情報やコミュニケーションを媒介し、社会に多大な影響を与えうるものであると同時に、社会的に構成され、変容していくもの」という。専門教育カリキュラムは、メディア文化論、ジャーナリズム論、放送論、インターネット・コミュニケーション論、広告論、エンターテインメント論、映画論など約100科目もある。

 ◆ネパール大地震 2015年4月25日、ネパールの首都・カトマンズ北西部を震源地として発生。中国地震省はマグニチュード8.1と発表。カトマンズ中心部の高さ60メートルのダラハラ塔が倒壊し、世界最高峰エベレストの雪崩も起きた。死者は8800人ともいわれている。

 ◆映画「カトマンズの約束」 建築家のラメス・ラマ(ガネス・マン・ラマ)は、カトマンズの伝統的建築物の耐震性強化を訴えるが理解されず、失意のまま留学時代の恩師・菊池教授(伊藤敏朗)を頼って日本へ。そんな中、ネパールに大地震が起きる。日本の国際緊急援助隊の一員として故郷に戻ったラマは、行方不明になった謎の恋人・ニサ(シタル・スレスタ)の姿を求めてがれきの街をさまよう。監督・伊藤敏朗、2時間7分。

 ◆ネパール大地震復興支援「カトマンズの約束」上映会

 ▽4月25日・中野ZEROホール(午後4時・同7時)

 ▽4月30日~5月6日・渋谷ユーロライブ(午後1時・同4時20分・同6時40分)。同時上映「カトマンズに散る花」(午前10時30分)、「カタプタリ~風の村の伝説~」(午後3時20分)。

 時間はいずれも開始時間。問い合わせはフィルム・クリエーション・ネパール(TEL070・3977・5885)へ。

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