石田和雄九段、弟子の高見泰地六段にエール…「王手放置」の反則負けも語る

スポーツ報知
弟子の高見泰地六段が出場している叡王戦のポスターを誇らしげに柏将棋センターの壁に掲示している石田和雄九段

 2012年に現役を引退した元A級棋士・石田和雄九段(71)は現在も多忙を極めている。師範を務める将棋道場での指導、イベント出演、著作執筆…。そして、門下から初のタイトルをもたらすため叡王戦7番勝負を戦っている弟子の高見泰地六段(24)にエールを送る日々だ。「将棋が生きる力を与えてくれました」。また、反則「王手放置」の苦い記憶も語ってくれた。

 心優しき名伯楽の素顔が見えた瞬間だった。

 弟子の高見六段が現在進行中の叡王戦7番勝負で一門初のタイトルを目指して戦っていることを問うと、石田九段は笑顔で「こんなに早くタイトル戦に出てくれるなんて。一門の悲願ですからね。高見君にはもちろんタイトルを取ってほしいですよ」と言った後、表情を変えた。「いや、プレッシャーをかけてもいけませんね…。一局一局、勉強のつもりで。結果は後からついてきますから。きっとね」。現役時代、A級4期を誇りながらタイトル戦出場のかなわなかった男だからこそ、晴れ舞台の重圧を思いやった。

 将棋界の師弟関係はさまざま。門下を名乗るものの普段は交流がないケースも多いが、石田九段と弟子たちは親子のような間柄だ。「みんな子供のような、孫のような。小さ~い頃から知っていますからねえ」。1992年から師範を務める道場「柏将棋センター」(千葉県柏市)に通う子供に自ら指導し、棋士へと育ててきた。「教授」の異名を持つ勝又清和六段(49)、熱狂的巨人ファンとして本ページにも登場した渡辺大夢五段(29)、藤井聡太六段の連勝を止めて話題を呼んだ佐々木勇気六段(23)、そして高見六段。バラエティーに富む面々が巣立ち、今月には門下初の女流棋士として加藤結李愛女流3級(15)も誕生した。

 弟子の四段(棋士)昇段を祝うパーティーを盛大にホテルで開催するのも石田門下ならでは。ところが…。「高見君をお祝いしたのは居酒屋だったのです…。だから今回、タイトルを取ったら…」。ひそかな計画を胸に温めている。

 日々通う柏将棋センターは、日本将棋連盟の支部の中でも日本一の会員約280人を誇る。解説やイベントなど各地に足を運び、来月には著書「棋士という生き方」を出版する。愛知県出身の竜党で、松坂大輔投手の復活劇にも熱視線を送っている。「もうひとつ体が欲しいくらい。我が人生を振り返ってみて…精いっぱいやったと思うんです。もちろん悔いもありますけれど。将棋に生かされているのかな。生きる力を与えられているんですね。将棋と出会ってなかったら? なーにやっていたんでしょうかね…」

 現役生活45年。忘れ得ぬ一局がある。98年度の竜王戦ランキング戦2組。あの「ひふみん」こと加藤一二三・九段(78)との一局で、自らの王将にかけられた王手を避けずに別の手を指す「王手放置」の反則を犯して敗れた。恐る恐る記憶を尋ねた。「…。いや、悔しかったですよ。2、3日間は眠れなかったです。今でも悔しいですね…いや、勝っていたんですよ」

 当時の局面を盤上に再現し、駒を動かしながら石田は「勝っていたんです」という言葉を17回も繰り返し、痛恨の一手を回顧した。敗戦から20年が経過しても再燃する勝負への情熱は今、弟子たちに継承されている。(北野 新太)

 ◆石田 和雄(いしだ・かずお)1947年3月29日、愛知県岡崎市生まれ。71歳。板谷四郎九段門下。62年、奨励会入会。67年、四段昇段。72、76年度の新人王戦優勝。79年に順位戦A級に昇級。91年、44歳でA級復帰を果たす。99年、通算600勝で将棋栄誉賞受賞。2012年、現役引退。

将棋・囲碁

×