【#平成】〈5〉わずか5年だったポケベルブーム 逆転の発想でまだまだ現役

2018年6月9日11時0分  スポーツ報知
  • 「ポケベルが鳴らなくて」のジャケット写真
  • 【答え】〈1〉よろしく〈2〉寒いよ〈3〉何してる〈4〉新宿〈5〉渋谷ハチ公〈6〉愛してる〈7〉トイレ行ってくる
  • ポケベル契約者数の推移
  • 東京テレメッセージの「防災ラジオ」。左下の画面に文字が表示される
  • 平成5年主な出来事

 天皇陛下の生前退位により来年4月30日で30年の歴史を終え、残り1年となった「平成」。スポーツ報知では、平成の30年間を1年ごとにピックアップし、当時を振り返る連載「♯(ハッシュタグ)平成」を掲載する。第5回は平成5年(1993年)。

 バブル景気が完全に崩壊した平成5年、1曲の歌と同タイトルの不倫ドラマが話題となった。「ポケベルが鳴らなくて」―。電話で無線呼び出しをする小型受信機だったポケベルはこのドラマの影響もあり、一気に普及した。96年6月には契約台数がピークの1078万台を記録したが、携帯電話の登場で99年には5分の1以下に急降下。わずか5年ほどのブームに終わり、「時代のあだ花」と思われたポケベルは、平成が終わろうとしている今、形を変えて脚光を浴びつつある。(高柳 哲人)

 妻子ある商社マン(緒形拳)と、29歳年下の娘の親友(裕木奈江)の「禁断の恋」を描き、賛否両論を巻き起こした「ポケベルが鳴らなくて」。国武(くにたけ)万里が歌う同タイトルの主題歌も50万枚以上を売り上げ、記憶に残るドラマとして現在も語られている。

 劇中、2人がひそかにポケベルで連絡を取り合っているのを見て、その存在を知った人も多いかもしれないが、実はサービスが開始されたのは東京五輪から4年後の1968年。とはいえ、営業職など外回りの人たちが使う専門的なアイテムとしての役割が長かった。

 契約者が増え始めたのはバブルが始まる89年ごろ。それが、93年になって急激な上昇カーブを描いた。当時9年間にわたってポケベルの端末開発に携わっていたNTTドコモの端末サービス部長、板倉仁嗣さんは「ドラマの影響はもちろんあったでしょう。加えて、語呂合わせのメッセージを送るブームも大きかったと思います」と振り返る。

 当初は受信すると「ピーピー」と鳴るだけだったが、87年、数字を表示する画面が付いた端末が発売される。発信者の電話番号を通知するための機能だったが、93年頃から「39(サンキュー)」「084(おはよう)」などのメッセージを送ることが流行し始めた。ビジネスマンのものだったポケベルが、友人や恋人同士の「コミュニケーションツール」へと進化した。

 ドラマの放送当時、板倉さんと同僚らは「邪道なドラマだな」と思って見ていたという。「開発している立場からすれば、不倫相手との連絡手段として使うイメージはなかった。若い人たちに、交流の場を広げる道具として使ってほしいと思っていました」。思惑通り、95年にカナ文字が表示できるようになった時、女子高生が一気に飛びつく。

 公衆電話にかじりつき、ものすごいスピードでボタンを押す女子高生の姿は、あちこちで見られた。「1人あたりの利用回数が、こちらの想定をはるかに超えていた」と板倉さん。“ポケベルが鳴りすぎて”、基地局の設備を当初の10倍の負荷に耐えられるよう増強する必要にも迫られた。だが、携帯電話やPHSの普及と共に、96年を頂点として衰退の一途をたどる。双方向通信の携帯に、「一方通行」のポケベルがかなうはずがなかった。

 「ただ、相手の状況を気にしなくてもいいメールやLINEは誰でも使いますよね? いわゆるメッセージ系の通信文化は、間違いなくポケベルから始まっていると思います。絵文字の走りもポケベルです。カナ入力できるポケベルユーザーで、ハートマークを多用した人は多いと思います」(板倉さん)。通信手段がはるかに進化した今も、ポケベルの発想は脈々と受け継がれている。

 今の若い世代には「何それ?」と存在すら認識されておらず、とっくに「鳴らなくなった」と思われているポケベル。だが、現在も細々とサービスが続いているだけでなく、“復権”をもくろむ動きもある。

 NTTドコモは2007年3月末でポケベル(01年から「クイックキャスト」に名称変更)サービスを終了。一方、1987年にポケベル市場に参入した全国の「テレメッセージ」系各社のうち、東京テレメッセージだけが99年に会社更生法の適用を受けた後も事業を継続している。

 同社の清野英俊社長によると「新規の申し込みは受け付けていませんが、現在も1500台ほどの利用があります」。主な契約先は病院。簡潔に医師らを呼び出すことができ、医療機器に影響を与える有害な電波を発しないポケベルは重宝されているという。

 さらに、現在取り組むのが、ポケベルで使用する「280MHz帯」と呼ばれる電波帯を使った防災無線事業だ。平常時はラジオとして使用できるが、災害時に自治体が「防災行政無線」を放送すると、自動的に切り替えて文字情報を受信できる「防災ラジオ」を開発し、全国の約30の自治体で計12・1万台が導入されている。

 「ポケベルの電波は携帯電話と比べて遅く、送信可能なデータ量も少ないのですが、そのぶん基地局の数が少なくて済む。災害などで一部の基地局が倒壊しても、電波を送れる確率は高くなる。また、この周波数は室内でも受信しやすい特長もあります」と清野さん。「少ない情報しか受け取れない」ために衰退したポケベルの弱点を「必要最低限だけ受信できればいい」という逆転の発想に変え、活用している。

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