古代人もあった「盛りたい」欲求…国立新美術館「ルーヴル美術館展―」アベ首相が視察

スポーツ報知
「戴冠式の正装のナポレオン1世」の前に立つアベ首相(カメラ・池内 雅彦)

 社会派コント集団、ザ・ニュースペーパーの福本ヒデ(46)扮(ふん)するアベ首相が、このほど東京・六本木の国立新美術館で開催中の「ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか」を視察した。展示された古代から19世紀までの110点は、フランスのルーヴル美術館所蔵品からえりすぐった傑作中の傑作。ナポレオンを始めとする世界史上の権力者たちは、自らをどう描かせてきたのか。

 実際よりも目が大きく、美肌で写るアプリを使ったり、選挙用ポスターの写真を修整したりしたくなるのは、現代人特有の心理ではないらしい。展示室に入って真っ先に目に飛び込んできたのは、目がくっきりと大きく形作られたマスク。3000年以上前、古代エジプトのミイラのひつぎを覆っていたものだ。

 国立新美術館の主任研究員の宮島綾子さんが解説する。「故人の容貌よりも、来世を生きるにふさわしい顔に理想化しています。現代的に言えば『盛っている』わけですが、どの時代の肖像にも『盛りたい』という欲求は共通しています」

 アベ首相は深くうなずいて「とても親近感が湧きます」とひと言。自分をよりよく見せたい心理は古今東西共通なのだ。

 次にアベ首相が反応したのは、紀元前のイランで出土した「境界石」。バビロニア王が、自分の娘を女神に紹介しているシーンが形作られている。「神」に頼って自らの権威を示すということか…。アベ首相は独自の視点で語り出した。

 「これはですね。人気がある政治家と一緒に写りたがる人の心理と同じです」

 「理想化された肖像の原型」と評されるアレクサンドロス大王の大理石像を経て、アベ首相が「おおー」と嘆声を上げ、足を止めて見上げたのは、フランス皇帝、ナポレオンの大理石像だ。

 高さ210センチの「戴冠式の正装のナポレオン1世」(1813年、クロード・ラメ作)。古代ローマ皇帝に由来する月桂(けい)冠と、歴代のフランス王室ゆかりの白テンの毛皮とビロードのマントは、古代の理想に連なる正統な君主であることを象徴している。アベ首相は「この威圧感…これは、全てにおいて憧れる」と絶句した。

 宮島さんが解説する。「ナポレオンは生きている間は、肖像で自分のイメージをすごくコントロールする人物でした。特にこの正装の姿は推奨していて、なかなかこれ以外のものを作らせませんでした。これをいくつも作らせて官公庁の各建物や宮殿に置いていった。元々はコルシカ島の地方貴族から成り上がった人なので、正統な最高君主であることを、肖像でアピールしなくてはいけなかったんです」

 展示の後半にはスペイン王妃などの肖像が展示された「権威ある女性」のコーナーもある。どれだけ盛っているかは、きちんとした研究による検証が必要なのだろうが、率直に言うと「もっと盛ってあげても良いんじゃないの」と感じる作品もある。ベラスケスの工房による作品を見たアベ首相は「理想化というよりリアルに感じる」と感想をもらした。

 肖像というのは、どうやら、ただ盛ればいいというものでもないらしい。宮島さんは「その人らしさとのバランスをどう取るか、です。時代によっても異なりますが、アレクサンドロス大王のように、盛りつつも、リアルにしようというものもあります」と説明した。権力者たちのイメージ戦略は奥が深いのだ。

 盛りつつもリアルに―。これはひょっとしたら民意を捉える極意なのかもしれない。

 ◆ルーヴル美術館展 9月3日まで。金曜、土曜は6月は午後8時まで、7月~9月は午後9時まで。入場は閉館の30分前まで。開館時間は午前10時~午後6時。休館日は毎週火曜日(8月14日は開館)。一般1600円、大学生1200円、高校生(800円、無料観覧日あり)、中学生以下無料。会場の国立新美術館は、東京メトロ千代田線「乃木坂駅」6番出口直結。同日比谷線「六本木駅」4a出口から徒歩5分。9月22日~来年1月14日には、大阪市立美術館でも開催される。

社会