逃亡犯はなぜ西へ? 西は選択肢多い フランクな人柄逆手に潜伏

スポーツ報知
平尾受刑者と樋田被告の逃亡経路

 今年は2つの大きな逃亡事件が世間を騒がせた。4月に平尾受刑者が、8月には樋田被告が逃走した。偶然にも2人が逃げた先は西。遡れば、2007年、リンゼイ・アン・ホーカーさん死体遺棄容疑で指名手配される中、約2年7か月逃げ続けた市橋達也受刑者(39)も最初に千葉から西の名古屋や福岡へ向かった。

 なぜ逃亡犯は西に向かうのか。少年鑑別所や刑務所等で約1万人の犯罪者を心理分析した犯罪心理学専門家の東京未来大学教授・出口保行氏(60)は「西には大阪を起点に広島、福岡がある。足を延ばせば名古屋、北陸にも逃げられる。逃亡犯にとって選択肢がたくさんあって動きやすい」と分析。逆に「東京は西に逃げられるが、東は仙台しかない。東京は袋小路」と指摘した。西日本の地理的特徴が、逃亡犯にとって好都合だという。

 また、逃亡するには「匿名性が高いことが重要」と出口氏は説明する。匿名性とは隠れやすさのこと。人の多い大都市であれば、人混みに紛れることができて、自然と匿名性は高くなる。いかに隠れるかが重要な逃亡ではもっとも大切な要素だ。反対に「人や情報、隠れる場所がない田舎に行くのは逃亡犯にとって自殺行為」だという。過疎地だと人間は目立ち、匿名性が低くなってしまう。

 西へ逃げる理由は、県民性も関係しているとの見方もある。県民性研究の第一人者で“県民性博士”の矢野新一氏(69)は「東と西はやっぱり違います。東は武士の文化で、西は商人の文化。東よりも西はフランクです」。実際にその土地の人間に溶け込むのに必要な目安について「東京は3代、大阪は1代」とする。西は新しいもの好きで開放的な文化が特徴なのだという。

 「県民性をよく表した面白い実験がある」と矢野氏。青森県と大阪府の中高年女性それぞれ20~30人を青森県同士、大阪府同士で30分間、話をさせた。もちろん全員初対面。その結果、青森の人たちは全く話さない一方で、大阪の人たちは仲良く会話した。矢野氏は「大阪の人はフランクで詮索しない」と分析。逃亡犯はこの接しやすい土地柄を逆手に取るのだという。

 一方で矢野氏は、東京は県民性の観点からも逃亡するにふさわしくないと説明する。「よその人間に『東京なんて住む所じゃない』と言われると『おまえが勝手に来たんだろ』と東京人は怒る。東京はよそ者、他人に厳しい」。例えば、東京は営業マンが客先を回る時、約束の日以外に行くと怪しまれる。その一方で大阪は「よく来たね」と褒められるという。

 日本の厳しい警察の包囲網をかいくぐる逃走犯。今日もまた、西へ向かっているかもしれない。

 ◆樋田被告の事件経過

 8月12日に大阪府富田林署から逃走。接見室の隔離用のアクリル板を蹴破ったとみられている。その後、四国に渡り、お遍路を装いながら四国を転々とした。本州に戻った際には自転車日本一周を装い、記念撮影にも応じるなどしていた。9月29日に山口県周南市の道の駅で窃盗容疑で現行犯逮捕された。

 ◆平尾受刑者の事件経過

 4月8日に愛媛県松山刑務所大井造船作業場から脱走。広島県尾道市の向島の別荘などに潜伏した後、泳いで本州側へ渡り上陸。4月30日に広島駅の近くで逮捕された。捜査関係者によれば、同受刑者は福岡県に逃れる予定だった。9月28日に松山地裁で懲役4年の判決が言い渡された。

 ◆出口 保行(でぐち・やすゆき)1958年、神奈川県生まれ。60歳。東京学芸大学大学院修了後、国家公務員上級心理職として法務省入省。犯罪者を心理分析する資質鑑別に従事。法務省法務総合研究所室長研究官を退官後、現在は東京未来大学で学部長を務める。専門は犯罪心理学。テレビ出演も多数。

 ◆矢野 新一(やの・しんいち)1949年、東京都生まれ。69歳。専修大学経営学部卒業。株式会社ランチェスターシステムズに入社し、チーフコンサルタントとして活躍。独立し90年に株式会社ナンバーワン戦略研究所を設立。県民性研究の第一人者で著作も20冊を超える。

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