鳥に興味を持たない川上和人さんが伝える、鳥類学の面白さ

2017年8月26日12時0分  スポーツ報知
  • 竹芝桟橋で取材に応じた川上和人さん。メインフィールドはここから約1000キロ南、小笠原諸島にある絶景の孤島だ(カメラ・甲斐 毅彦)
  • 「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」

 「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」(新潮社、1512円)は、今年出版された話題本の一つだ。学者離れしたギャグセンスと鳥類学の高度な専門知識が、相まってつづられた唯一無二の教養エンタメ本。読めば、とてもただの学者とは思えない著者・川上和人さん(44)は、いったい何者なのだろうか。主調査地である小笠原諸島(東京都)の無人島から帰還中の川上さんに、船の発着地となる東京・竹芝桟橋で話を聞いた。(甲斐 毅彦)

 日本には、こんな学者がいたのか。海底火山の噴火によって新島が誕生すれば上陸する。無人島では巨大蛾(が)、ウツボ、ネズミたちと悪戦苦闘。ただし、目的は探検や冒険ではなく、あくまでも鳥の生態調査。大真面目なはずの学術調査だが、この本ではしょうもないギャグを交えて、読者を笑わせてくれる。

 インタビュー前には魚類学者のさかなクンがそうであるように、鳥のかぶりものでもしているのか、と妄想を膨らませたが、現れたのはどんな質問にも理路整然と答えてくれる、誠実な学者さんであった。

 「鳥の研究は自分がやっていて楽しいんです。楽しければゲームと同じように多くの人に勧めたくなる。本を出したことで鳥類学者っていう職業が世の中に存在するんだってことを認識してくれる人がちょっと増えたかな、と思います」

 冒頭では、映画「007」の主人公、ジェームズ・ボンドが実在の鳥類学者の名前から命名されたという「トリビア」が紹介される。鳥類学者が、隠密であるはずのスパイに知名度で負けてしまったことを嘆く川上さん。その文章は、本題に入ると、さらにさえてくる。テーマとなるのは「メグロ」「ウグイス」といったなじみ深い鳥から初耳の珍鳥まで。新種発見のチャンスを逃してしまった自身の「一生の不覚」も潔くつづった。白眉は、現在ではまだ実在が確認されていない、森永チョコボールのパッケージに描かれている「キョロちゃん」の生態考察だ。

 「最初からフィクションを考察するなんて意味がないと思ってしまうと、そこで止まっちゃう。存在するとして目の位置や足の形態から、こうなんじゃないかと考え始めると面白くなるんです。なぜそんなことが起こりうるのか、と新しい考え方を提案しないと科学は停滞してしまう。最初からガンダムなんて実際には作れないよ、というのではなく、作るためには、どういうメカニズムが必要なのか、と考えた方が建設的だし、面白いと思うんです」

 そもそも、生態学へ関心を持つきっかけとなったのが、小学校高学年の時に見たアニメ映画「風の谷のナウシカ」(宮崎駿監督、1984年公開)だった。東大入学後は野生生物を探求するサークルに入り、研究者の道を進んだ。

 「あの映画を一本作ることで、環境問題に興味を持った人はすごく多かったと思います。環境問題への意識が高まり、僕もそのブームに乗ったんですが『ナウシカ』を見ていなければ僕は生態学者になっていなかったかもしれません。専門家だけではなく、一般の人にメッセージを伝える(エンターテインメント作品の)方法は、すごく必要な部分なんです」

 本書を読む上で鳥類学の知識は一切不要だが、文中には「のび太」「シャア・アズナブル」「不二子ちゃん」「デビルマン」などのアニメの登場人物名がちりばめられているので、多少のアニメ知識は必要だ。例えば「ルパン一味を追う埼玉県警のようなもの」という比喩で合点がいけば問題ない。

 「僕の最大の失敗は、アニメネタが古すぎて、おっさん世代は面白いと思ってくれるんですけど、若者が分からないかもしれないですね。若い人に面白いと思ってもらわなきゃいけないのにターゲットを間違えてしまった(笑い)」

 本のタイトルだけ見ると本当は鳥が嫌いなようだが、真義はペットとしての鳥を飼ったり、バードウォッチングを楽しむことに興味があるのではなく、好きなのは、学者としての鳥類の研究であるということだ。「鳥類愛」そして「アニメ愛」に満ちた川上さんの真の狙いは、鳥類学の普及と啓発にある。

 「こういう本を出す機会をいただけてすごくラッキーでした。学問の面白さを伝えるのは、僕ら研究者の義務。それを僕らがやらなかったらどんどん廃れていってしまう。興味を持つ人が増えて、多くの人が研究すれば新しいアイデアもどんどん出てきて面白くなる。鳥類学だけに限らず、そういう分野はたくさんあると思いますね」

 ◆川上 和人(かわかみ・かずと)1973年4月11日、大阪府高槻市生まれ。44歳。東大農学部林学科卒、同大学院農学生命科学研究科中退。農学博士。森林総合研究所主任研究員。著書に「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」「美しい鳥 ヘンテコな鳥」「そもそも島に変化あり」など。図鑑の監修多数。

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